日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (010)

Q:

ヘッドホンで大きな音を聞いていると難聴になるという話を聞いたのですが本当ですか?

A:

まず,作業者の聴力保護に関する規制や勧告についておさらいしておきます。日本では,“騒音障害防止のためのガイドライン”により,作業環境の管理基準として等価騒音レベル 85 dB という値が示されています。諸外国でもほぼ同様の値が採用されています。(社)日本産業衛生学会では,通達が出される前から,“勧告”として騒音の限度値を示しております。そこでも,1日8時間を暴露時間とした場合の限度値をA特性音圧レベル 85 dB としています。一般に,一日の暴露時間が半分になった場合には基準値を 3 dB 上昇させることができると考えられています。
  注意すべきは,これらの基準値の持つ意味です。例えば,常習的に基準値以下の暴露が10年以上続いた場合,騒音性永久閾値移動(回復しない聴力障害)を 10 dB (1 kHz 以下),15 dB (2 kHz),20 dB (3 kHz 以上)以下にとどめることが期待できる値と説明されています。
  では,ヘッドホンで聞く音の音量はどの程度なのでしょうか。平成10年度春季研究発表会のスペシャルセッション“音を聞く楽しみと聴力保護”での講演から,その一部を引用します。鈴木は,1998年7月より,フランス国内で販売される音楽用ヘッドホンステレオの最大出力の上限を 100 dB に規制する法案が成立したことを報告しています。音量調整を最大位置とした機器に規定する信号を入力したときに発生する音圧レベルを自由音場のA特性音圧レベルに換算した値が 100 dB を越えてはならないというものです。規制値を 100 dB とした根拠は不明ですが,仮に前述の作業環境での基準にあてはめてみると,1日当たり15分の聴取時間に相当します。 茨木と間は,メーカーの立場から,市販されているヘッドホンステレオ(乾電池1本で駆動するもの)では,フランスの規制値を超える機種はないことを報告しています。また,電車の中でヘッドホンステレオを使用しているときでも車内放送を聞きたいという要望が多い,ほとんどが通勤通学時に使用されており実際の使用時間は長時間にわたらないと想像される,年間500万台を超える需要にも関わらず難聴が社会問題化していないことなどから,平均的な聴取レベルと聴取時間は深刻な問題を引き起こす程度ではないと推定しています。青野と高木は,学生を中心とした100人を対象に実際のヘッドホンステレオの聴取レベルと聴取時間を調査した結果を報告しています。 鼓膜面上のレベルで結果が報告されているので前述の結果と直接比較はできないのですが,平均聴取レベルは 80.5 dB,平均聴取時間は1日約1時間という結果でした。しかしながら,全体の1/3以上が 85 dB 以上,19 % が一日2時間以上ヘッドホンステレオを使用していることも報告されています。更に,騒音性一過性閾値変化(回復可能な聴力障害)を測定した実験結果と共に,調査した音を1時間又は2時間聴取した場合についても検討しています。
  以上の結果から,平均値で判断するのであればヘッドホンを用いることによる聴力障害は心配するほどのものではないといえます。しかしながら,聴取レベルや聴取時間によっては,聴力障害を発生させる危険性が大きいことも明らかです。聴力損失の程度には個人差が大きいことも知られています。また,常習的な暴露ではないものの,ライブハウスやディスコなどで発生する音圧レベルが非常に高いことも報告されています。自ら望んで聴取する音によって聴力障害を発生させないためには,常に聴取するレベルや時間に注意することが重要かと考えます。

瀧浪 弘章(リオン)