日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (104)

Q:

水の中で動物はどのようにして通信をしているのでしょうか?

A:

見通しがきかない水の中では,音がとても重要です。しかし声の個体識別が難しいので,その役割については一部しか分かっていません。
 水の中で見失った仲間を見つけるのはたいへんです。スクーバダイビングで一緒に潜った相手を探すとき,前後左右だけでなく,上下とか,右斜め下など,普段の陸上生活ではありえないところまで見なければいけません。もちろん,空気中のような見通しはききませんから,互いの存在を目だけで確かめるのは難しいのです。そこで,音が役立つわけです。
 北半球のヒゲクジラは,夏に北の海でオキアミなどの餌を食べ,冬には南の暖かい海で繁殖します。その間の回遊経路は,数千kmに及びます。こうした大移動の中で,クジラの雄雌は繁殖のためにちゃんと出会わなければなりません。クジラはかなり遠くから,相手の存在を知る必要があります。例えばナガスクジラは,17Hzという人間の耳には聞こえないほどの低音を発しています。これだけ低い音は,水中での吸収が極めて少なくとても遠くまで届きます。もしナガスクジラの耳が,イルカと同じくらい感度がよいとするならば,互いに500キロメートル離れていても,その声が聞こえるでしょう。
 クジラの声のなかでも有名なのは,ザトウクジラの歌です。小笠原諸島や沖縄の慶良間列島では,冬になるとザトウクジラが来遊し,雄が歌を歌います。この歌は,楽章,小節,それを構成するユニットと呼ばれる音素に至るまで,決まった順序で構成されています。不思議なことに,ハワイ沖に来遊するザトウクジラと日本のザトウクジラの間で,幾つかの小節が共有されていることが知られています。どこかで歌合わせをしているに違いありません。歌の機能については,雄の呼吸能力の宣伝,雌の誘因,なわばりの誇示から音響探索など様々な推測がありますが,十分に検証されていません。
 声を使っているのは,クジラだけではありません。私たちの食卓にのぼる魚も,たくさんの種類が音を出します。塩焼きにするとうまいホウボウという魚をご存じでしょうか。白身で淡泊ですが,なかなかしっかりとした味わいがあります。この魚の奇妙な名前は「ボウボウ」という鳴き声からつけられました。嘘だと思うなら,魚屋で生のホウボウを買ってきて,腹を割いてみましょう。ウキブクロの裏側に紡錘形の発音筋が見つかるはずです。大西洋では実に150種以上もの「鳴く魚」が同定されていますし,釣り人にはなじみのイシモチやニベも鳴きます。こんなにも身近な動物たちが海の中で鳴いています。
 鳥や昆虫で行われている,声の機能についての精密な研究は,海の動物についてはこれからといえるでしょう。

(赤松友成:水産工学研究所)