日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (106)

Q:

「最近骨伝導を用いた電話が開発されていますが,音質は変わらないのでしょうか? また,了解性に影響は出ないのでしょうか?」

A:

結論から先に述べますと,骨伝導電話機は難聴者が音を聞くためには極めて有効な手段ですが,健聴者が用いた場合には,通常の電話機に比べて,音質,明瞭度は多少劣化します。
 音は,耳から鼓膜までの外耳,耳小骨のある中耳を経由して内耳に到達します。これを気導音と呼びます。このほかに,軟組織から頭蓋骨を伝わり直接内耳を刺激する音があり,これを骨導音と呼びます。どんなに密閉度の高い耳栓をしても音が聞こえてしまうのは,骨導音が聞こえているためです。また,録音した自分の声が普段聞いている自分の声と異なって感じられるのも,骨導音が混入した自分の声に聞き慣れているからです。ベートーヴェンは,難聴にもかかわらず,棒をくわえ,片方をピアノにあて,骨導で音を聞いて作曲したという話が骨導音の例としてよく挙げられています。
 骨導音は外耳・中耳を経ないで内耳に伝わってくるため,外耳・中耳の障害による伝音性難聴の場合には,骨導音により音を聞くことができます。しかし,内耳にも障害がある感音性難聴の場合には骨導音を用いても音を聞くことはできません。骨伝導では1,000Hz以上の周波数の音は通りにくくなっているものの,音声の識別に必要な8,000Hzまでの音は伝達できます。ただ,骨の非線形伝達特性により歪が生ずることがあります。また,骨導音は頭蓋骨から伝わってくるため,両耳に同じ音が伝わってしまう問題点もあります。しかし,個人に応じて適切な音量や周波数特性の補正を施せば,比較的明瞭に音を聞くことができます。なお,最近の研究として,振幅変調された超音波を骨導音として入力することにより,重度の難聴者でもある程度音声を知覚できるということが報告されています。
 骨伝導を利用した難聴者用の補聴器や電話機は,数種類が商品化されています。いずれも,こめかみや頬骨など耳の周囲から音を与える構造になっています。耳を塞がないように形状を工夫したものもあります。また,気導音と骨導音の両方を用いるものもあります。
 骨伝導を用いた音響機器としては,音を聞くためのものばかりではなく,マイクロホンもあります。骨伝導マイクロホンは発声された音を空気経由でなく,骨導で収音するために,周囲の雑音の影響を受けにくいという特徴があります。通常マイクとイヤホンが一体化されており,周囲の雑音に応じて気導音と骨導音の混合比を変え,聞き易い音で収音するタイプもあります。

(相川清明:NTT CS基礎研)