日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (107)

Q:

最近,人間の可聴域を越える録音・再生機材が開発されていますが,どんなメリットがあるのでしょうか?

A:

4.7GBのディスク状記録メディアを使う音楽レコードが商品化され,音について好評です。記録容量4.7GBは現行CDのそれの約7倍あり,2チャネルステレオの場合100kHz近くまでの録音が可能です。人間の可聴域上限は20kHzというのが常識でしたから,新しいレコードはこれを遥かに超える録音ができることになります。
 帯域拡大のメリットとして考えられることは,ナイキスト周波数(標本化周波数の1/2)を超音波帯域に追いやることで,標本化・補間処理における悪影響が可聴周波帯域内に現れる可能性を軽減できることです。CDの場合のように,ナイキスト周波数が可聴周波帯域の上限に近い場合は,急峻な遮断特性を持ち遮断周波数近傍の位相特性が優れた補間用フィルタが必要になりますが,帯域拡大によってこの条件が緩和されます。
 また,ノイズシェーピング技術を使って可聴周波数帯域のノイズの一部を超音波帯域に追いやり,信号対雑音比を上げることができます。
 これらは,帯域の拡大によって,可聴周波帯域の再生品質が改善されることを意味します。
 さて肝心の,帯域が拡大されて再生可能となった超音波成分の直接的な効能です。これについて,(1) 純音の場合とは違い,音楽信号では人も超音波が聴きとれる,(2) 超音波成分を持つ音と持たない音とでは,生体の反応が違う,(3) 空気の非線形により伝搬過程で生じる混変調成分が聞こえに影響を持つ,など幾つかの説があります。いずれも超音波成分が音の高品質化に有効であるとするものです。しかし,人の耳が超音波を感覚することを肯定する医学的・生理学的検証はなく,他の説も学術的な根拠はまだ不十分です。これまで,20kHzを超える超音波成分が人の聴覚や社会生活に関係を持つと考えられることがなく,学術的な関心が持たれる機会が少なかったためと考えられます。
 日本音響学会のハイデフィニションオーディオ調査研究委員会で,この課題についての学術研究の推進を進めています。多くの研究者が,未実証の問題の究明に関心を持っていただくことを期待します。

(吉川昭吉郎:長岡技術科学大学名誉教授)