日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (011)

Q:

壁の遮音性能は十分なはずなのに隣からの音がよく聞こえます。音を遮断するための基本的な事柄を知っておきたいのですが。

A:

音には弱いところを探して伝わるという厄介な性質があります。隣の住戸との境は,コンクリートの厚い壁なのに,音が良く聞こえてくることはしばしば経験することです。もちろん壁の遮音性能が不足することも無いとは言い切れませんが,どういう条件のときに聞こえてくるかチェックしてみましょう。隣の家の窓も含めて窓が開いているとき,窓を閉めてても換気孔から聞こえる,あるいは窓を閉めて静かになった方が聞こえるなど,いずれに該当しますか。前者の場合は,窓や換気孔が隣のそれと平面的に近い位置にあったり,ベランダの手摺や前面建物に反射していることも考えられます。後者及び窓や換気孔の位置が悪く遮音性能が不足しているような場合は,既知の音源を使った測定と専門的な判断が必要になります。
  近隣に及ぼす騒音を低減するのにまず考えなければならないことは,発生源の騒音を抑えることです。テレビやステレオのボリュームを絞ったり,家電機器は低騒音型を選定したり交換することも考える必要があるかもしれません。いったん室内に発生した音を壁や床で遮断することを考える場合は,吸音と遮音を混同しないようにしましょう。音が物体に当たると,当たった音の一部は反射しますが残りは吸収したり,透過したりします。吸音は音の反射を防止することなので,開け放たれた窓などは,大変良い吸音材料であると考えることもできます。このことから,遮音は音の透過を防止することなので,吸音材料は遮音材料にならないことが容易に理解できます。具体的に言うと,隣の家との境にたんすや本棚などの家具を置くことは効果がありますが,自分の部屋にジュータンを敷いたりカーテンを吊っても遮音にはほとんど影響しません。
  音の遮断を考える際には,まずその材料あるいは構造に隙間が無いかどうかを確かめることが必要です。隙間は見えにくいところにでき易く,高い周波数ほど小さな隙間でも音は通り抜けてしまいます。次に,一般に重い材料ほどまた音の周波数が高いほど遮音性能が良くなる(質量則と呼ばれる)ことを考えておくとよいでしょう。隣同士や上下階間で優れた遮音性能を得るには,コンクリートの厚さを十分にとる(重くする)ことが必要ですが,すでにある壁や床に何等かの材料を付加して遮音性能を上げようとする場合には,重量を増やすことが必ずしも得策でないこともあります。大ざっぱにいって,今ある壁の重量を倍にしたとしても 5 dB しか良くなりません。そこで別個の壁構造を付加することを考えると,他の部分からの回り込みがない理想的(1 m 以上の間隔を設けた場合)条件では遮音性能を足し算することができます。実用的には広い空間を取ることは難しく,付加する構造や間隔によっては,共鳴現象が生じて特定の周波数範囲でかえって悪くなることもあり,材料や構造の選定には十分な注意が必要です。

吉村 純一(小林理研)