日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (116)

Q:

熱音響現象とはどのようなものですか。身近な例と,工学的な応用例を紹介して下さい。

A:

「熱音響現象」この言葉を初めて聞く方が多いと思います。熱と音響,一見何も関連性がないように見える両者が,見事に結びついている,それが「熱音響現象」です。

熱音響現象では,「熱から仕事(音波)」,あるいはその逆に「仕事(音波)から熱」へ,エネルギーが直接変換されます。ここでいう,「音波」とは,純然たる音波を意味するのではなく,発生する振動流れ(もちろん圧力,速度とも),及びそれに付随して生じる音の意味です。しかも,可動部が一切ないことから,メンテナンスフリーという極めて優れた利点がある反面,エネルギー変換効率が低いという欠点もあります。具体的に説明しましょう。一方が閉じ,もう一方が開放している管を用意します。そして,閉口端側の適当な場所に金属たわし,細管あるいは薄い平板(それをスタックといいます)を置きます。そして,その閉口端側を熱し,開口端側を冷やして,温度差をおよそ数百度にすると,あら不思議,想像もできないような大きな音(実測値120dB程度)が発生します。また,発生する音波の周波数(共鳴周波数)は管の長さと管内の流体中の音速で決まります。逆に,その共鳴周波数の音波を開口端から印加するとスタックの両端に温度差を得ることが可能です。もちろん,スタックの形状,サイズ及びそれを設置する位置に最適値があることはいうまでもありません。じつは,この現象は職人がガラスを吹く作業の過程で,吹管から音が発生する。あるいは,ポンポン船,「吉備津の釜鳴り」の神事等に見られました。また,19世紀にはレイリー卿によって,その現象及び発生する音波周波数の理論値が示されています。しかし,現象そのものについての本格的な研究は,ほんの数十年前に始まったばかりです。現在は,音波発生機構の解明,熱音響機器の開発及び発生音波の利用法に関する研究が,各研究機関で盛んに行われています。工学的には,宇宙用の機器を冷却するための熱音響冷凍機,小型機器の冷凍・冷却用パルス管冷凍機,更にスターリング冷凍機などが商品化されています。一方,発生音波の利用例はまだ少なく,製鉄所において製造された直後の鋼板の冷却は,従来,2次元ジェットによってのみなされていましたが,それに熱音響機器より発生する音波(振動流れ)を加えると,少ないエネルギーで,しかも,冷却性能が格段に向上したとの報告があります。また,福岡市にある西部ガスミュージアムでは熱音響現象を利用した「ガスオルガン」による自動演奏の実演を見ることができます。

(畠沢政保:日大)