日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (117)

Q:

今月号の小特集は「骨導超音波とその応用」ですが,そもそも骨導音はどのようにして聞こえるのでしょうか?

A:

骨導音。一般には聞き慣れない,なじみの薄い言葉かもしれませんが,実は我々が毎日のように耳にしている(聞いている)非常に身近な存在なのです。
自分自身の声を聞くとき,「外耳→中耳→内耳」という経路(気導)だけでなく,もう一つ別の経路でも聞いていると言われています。それが骨導と呼ばれるもので,頭蓋骨の振動が外耳,中耳を経ることなく直接内耳へと伝えられ,聴覚に導かれる経路のことを指しています。これら気導,骨導で聞く音は,それぞれ気導音,骨導音と呼ばれています。「自分自身の声を聞く」という行為は,骨導音の影響を大きく受けるという点で,「他の人の声を聞く」ことと決定的な違いを有しています。その違いは,録音された声を聞くことにより,容易に体験することができます。他の人の声はそうでもないのに,自分自身の声にだけ違和感を覚えることでしょう。そこには聴覚への骨導音の影響の違いが反映されているのです。ここで,気導音にしか作用しない効果,すなわち外耳及び中耳が聴覚に与える影響を列挙し,気導音と骨導音との違いについて考えてみましょう。
1)外耳の耳介は,音源定位や音色の特徴付けなどに関与していると言われています。
2)外耳道には,その共鳴効果により,3kHz付近の音圧を10〜15dB強めるという作用(open ear gain)があると言われています。
3)中耳には,鼓膜とアブミ骨底板との面積比(約17:1)に伴う音圧増強作用(約25dB),ツチ骨柄とキヌタ骨長脚との間のてこ比(約1.3:1)に伴う音圧増強作用(約2.5dB)があると言われており,音響インピーダンスの異なる空気から内耳液への音響エネルギー伝達(インピーダンス整合)に大きな役割を果たしていると言われています。
こうしてみると,骨導音にはさしたる利点がないように思われるかもしれませんが,骨導音が効果的に使われている現場は実際に存在します。その最たるものが,聴力検査です。気導聴力と骨導聴力を比較することで,外耳や中耳など伝音系に障害(伝音性難聴)があるのか,それとも内耳よりあとの部位の感音系に障害(感音性難聴)があるのかを判別することができるのです。耳鼻科では日常的に骨導音が使用されています。そのほかにも,伝音性難聴の方の補聴を目的とした骨導補聴器や,骨導振動子を備えた電話機なども市販されています。また,骨導音を積極的に聞くことができるキャンディなど,おもちゃにも応用されていたように記憶しています。今月号で特集されている骨導超音波も骨導音の一種ですが,一般的な骨導音(骨導可聴音)とは音感,聴取可能者などに違いがあることから,両者の知覚メカニズムは同一でない可能性があり,その解明にはさらなる研究が待たれるところです。

(阪口剛史:奈良医大)