日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (118)

Q:

超音波診断をするとき,どうしてベトベトのクリームのようなものを塗るのですか?

A:

超音波診断装置は,超音波プローブ(圧電体で構成される超音波の送受信素子)から体内に数MHz帯のパルス波を照射し,体内からのエコー波(反射波)を同一のプローブで受波することによって,体内の像を映像化する仕組みになっています。その超音波検査は,超音波ゼリー(Ultrasound gelly)を塗布した体表面上を超音波プローブを滑らせることにより,プローブの位置や角度を合わせながら検査を進めていきます。検査の前にあのベトベトしたクリームのようなゼリーを塗らなければならないのは何故かという質問ですが,その第一の理由は,音響的なカップリング剤としての働きがあります。すなわち,プローブと体内の間を,生体に近い固有音響インピーダンス(音速と密度の積)を持つゼリーで満たすことにより,空気の混入を避けて,プローブと体内の間を音波が伝わり易くするようにしています。もう一つの理由は,ゼリーを塗ることでプローブの体表面上での滑りを良くして操作し易くする働きがあります。これらの目的を考慮して,市販されている超音波ゼリーは,粘性を持たせたゼリー状の水溶液で作られています。水溶性にしているのは,生体の固有音響インピーダンスに近づけるためと,検査の後で拭き取り易くする便宜のためです。
では,ゼリーを塗ることによってどのぐらい音波が伝わり易くなるのかについて考えてみます。もし,ゼリーがなければ,プローブと皮膚表面の密着が完全でないために,必ず幾らかは空気が入りこんでしまいます。プローブと体内の間に空気層が存在する,簡単な1次元モデルで解析することにしますと,音波の透過特性は,音波の周波数,空気層の厚さ,各々の媒質の固有音響インピーダンスによって決まります。空気層の前後の伝搬媒質を水とすると,空気の固有音響インピーダンスは水に比べて,約3,600倍も小さな値です。この結果,周波数を3μHzとした場合,たった1mmの厚さの空気層が混入しただけで,送受信を合わせたインテンシティの透過率(透過波の入射波に対する比)が 3.6×10-6にも小さくなることが分かります。この状態では,エコーの受信強度が小さすぎて満足な観測は望めません。
これに対して,生体に近い固有音響インピーダンスを持つゼリーをカップリング剤に使うことにより,100%に近い効率(透過率が1に近い状態)で音波を送受信できるようになります。

(山田 晃:東京農工大・大学院 生物システム応用科学研究科)