日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (121)

Q:

病院で診断に使われたり,脳機能の研究に使われたりするMRIは,検査中ガンガンと大きな音がしますが,あれは何の音で,どのくらいの大きさですか。また,これを小さくすることはできないのでしょうか。

A:

MRI(Magnetic Resonance Imaging: 磁気共鳴画像法)は核磁気共鳴現象を利用して体内の水や脂肪(実際にはそれらに含まれる水素原子核のプロトン(陽子))の分布を画像化する手法です。CT がX線を用いるのに対して,MRIは磁気と電波を利用します。検査に際して患者(被験者)は空間的に均一で強力な磁石(静磁場)の中に入ります。静磁場としては永久磁石(0.2〜0.4テスラ)や超電導磁石(0.35〜1.5テスラ)が臨床で用いられ,研究用途では3.0テスラ以上の高磁場装置も使用されます。静磁場中の患者(被験者)に,ラジオ波(高周波磁場)を照射することで生じる核磁気共鳴信号を繰り返しサンプリングして画像化します。この時,位置情報を取り込むために傾斜磁場を使用します。MRIの騒音はこの傾斜磁場に起因するものです。MRI本体にはx,y,zそれぞれの方向に沿って磁場強度を変化させる3種類の傾斜磁場コイルが取り付けられています。傾斜磁場の変化はこのコイルに流される電流をスイッチングすることで実現されます。磁場の中でコイルに電流が流れるとフレミングの左手の法則で知られる電磁力が発生します。この電磁力により傾斜磁場コイルとそれを巻き付けている保持具に大きな力が加わり,騒音を発生するのです。この電磁力は静磁場強度と電流の大きさに比例するため,高磁場装置ほど騒音は大きくなります。また,空間分解能,撮像時間は傾斜磁場の強さやスイッチング速度に依存するため,高分解能撮像や高速撮像の場合は特に騒音が大きくなり,超高速撮像の場合,A特性音圧レベルで100dBを超えることもあります。なお,99dB(A)を超える場合は,患者の安全性を考えて耳栓などの聴力の保護が必要となっています。傾斜磁場による騒音を軽減する方法としては幾つかの手法があります。
1)雑音の発生自体を抑える手法。傾斜磁場コイルを樹脂に封入したり,傾斜磁場コイルに流れる電流を最適化して耳障りな高周波成分を抑えた静音化の撮像法を使用したりします。
2)雑音の経路を遮断する手法。傾斜磁場コイルを真空槽に入れて音の伝達を抑える機構や傾斜磁場システムをMRI本体と分離した機構が考案され,33dBの低減を実現した装置も実用化されています。
3)発生した雑音を打ち消す方法。雑音と逆位相の音を発生させて雑音をキャンセルするアクティブノイズコントロールの研究も行われており,被験者の耳元で 500〜3,500Hz帯域で30〜40dB低減したとの報告もあります。MRIは撮像時間が長くてうるさい検査ということが言われない時代も確実に近づいています。

(清水公治:島津製作所医用機器事業部)