日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (127)

Q:

昔のアナログレコードには,どのようにして1本の溝にステレオ録音をしていたのですか。

A:

エジソンの円筒ロウ管方式から1920年代までは,音響エネルギーを直接カッティング針の振動に変換し,録音を行っていました。20年代中期になり,電気記録方式が「ウェスタン・エレクトリック社」で開発され,周波数特性が大幅に改善されています。その後,再生方法にも機械式から電気的な方式が発明されると共に,雑音の少ない塩化ビニールを混合した材質によるLPレコードが48年に発明され,従来の78回転から33回転で高品質長時間の録音・再生が可能になりました。
 ステレオ録音は1930年代に発明されたものの,製造工程があまりに複雑であったため,商業的な実用化は1950年代後半まで待つことになります。ステレオのアナログレコードには,角度が90度のV字型の溝が掘られており,それぞれの面に両チャンネルの音響信号が面の垂直方向の変位量として記録されています。従って,再生時には,ピックアップの振動を垂直面に対しそれぞれ45°の方向の振動に分離し,電気信号に変換することでステレオ再生を行っています。
 発明された当初は,この45°/45°方式のほかにも垂直水平方式も提案されましたが,前者を主張したアメリカ「ウェストレック」社の方式に早い時点で統一されました。
 ところで,この音響信号を音溝に刻む技術はそれほど単純ではありません。振幅に対して同じ変位で刻んでしまいますと,高周波数では,音溝と針の相対速度が大きくなりすぎます。また,速度を一定で刻みますと,低周波数で,変位が大きくなりすぎ,ディスクのスペースを有効に活用できません。そこで,基本的には低域では定変位,高域では低速度として,再生時には逆補正をする方式が取られました。この特性も50年代の初頭のLPレコードの開発では,種々の規格が提案されましたが,後に統一されました。
 アナログレコードは,更に高品質な録音・再生を実現するため,様々な工夫・発明が行われ,約60dBのダイナミックレンジと,30dB程度の両チャンネルの分離度を実現しています。様々な改良は70年代まで続けられました。その間には,普及はしませんでしたが,30kHzの変調を利用することで,4チャンネルの信号をディスクに刻む技術も開発されました。
 レコード製作の現場では,1972年には,ステレオのPCM録音機が発明されましたが,その後もしばらくは,多チャンネル録音ではアナログの磁気テープが主流でした。しかし,80年代に入ると,CDの本格的な普及が進み,現在のディジタル録音・再生の時代を迎えることになりました。

(石川 泰:三菱電機(株))