日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (128)

Q:

声道模型とはなんですか? また,どのようなものがあるのでしょうか?

A:

声道模型は,人間の「声の通り道」である声道を音響管で模擬した物理的な模型です。声道は声門より上方の共鳴腔で,喉頭,咽頭,口腔,鼻腔から構成されます。声道での「響き」により音声の特徴が変化するので,その形状を変えることで様々な母音や子音が作られます。その際,母音の場合には声帯の振動が音源となり,子音の場合には声道内の狭めの位置で摩擦音源や破裂音源が作られたりもします。
 その歴史は18世紀にまで遡ります。Kratzensteinは,「母音を人工的に作る装置」の懸賞に応募し,リード(音源)と複雑な形状の共鳴管により5母音を合成して懸賞金を得たそうです(千葉・梶山著,杉藤・本多訳,母音,岩波書店,2003)。また,von Kempelenは,ふいご,リード,共鳴管からなる機械式音声合成装置を製作しました。これらに登場する共鳴管は声道模型の原型と言ってもよいでしょう。そしてその背景には,どのように音声が作られるか?という人間の根本的な興味があったのでしょう。
現代に入ると,千葉・梶山(1942)がX線などで声道形状を計測,粘土で声道模型を実現しました。そこから生成される「人工的な母音」が実際の母音と同じ特徴を持つことを確認しています。また,梅田・寺西は,複数の角棒をスライドすることで空間(声道)の形を自由に変えられる声道模型を作り,韻質と声質について調べています(日本音響学会誌,1966)。声道模型はこのほか,様々な話者の多様な声道形状の違いをMRIデータに基づき模擬するなど,音声生成における機構や音響現象の解明などに広く応用されています。
ところで声道模型は,教育目的でも利用されます。形状の異なる音響管によって,同じ音源から様々な母音が目の前で作られていくこと自体が純粋な驚きですし,子供たちから専門家までそれを直感的に体得することができます。このことからArai(音声研究,2001)は千葉・梶山の声道模型を復元し,その教材(www.sp4win.com)が音響教育に有効であることを示しています。2004年の国際音響学会議でも,声道模型,人工喉頭(音源),風船を利用した肺の模型などを組み合わせた「肺から声道までの一連のモデル」が展示され,注目を集めました。
最近では科学館などでも展示されるようになり,子供たちも模型に触れながら「音の不思議」を体験できるようになりつつあります。何でもコンピュータでシミュレーションの時代ですが,「実際のモノが音を出す」という基本を忘れないためにも声道模型は重要な意味を持っていると言えるでしょう。

(荒井隆行:上智大学理工/現在,アメリカMIT客員研究員)