日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (013)

Q:

高調波成分の音を聞いただけで基本周波数に相当する高さが知覚できるのは何故ですか。

A:

音の高さは重要な心理的属性の一つであり,古くから聴覚研究の主要なテーマでしたが,結論から先に言えば現在でもこの問題に対する明確な解答は得られておりません。高さの知覚に関する最初の仮説は,ヘルムホルツによって出され,共鳴理論として有名です。これは音の高さが,その音が共鳴する内耳の基底膜上の場所によって決まるというもので,場所説と呼ばれました。ところが,この仮説にはいろいろと無理な点があり,説明のできない事実が数多く出てきました。その代表的なものが,基本波のない音の高さの知覚です。基本波を含めてすべての高調波のそろった複合音の高さは,基本波のみの音の高さと同じになりますが,基本波及び低次の高調波を幾つか除去しても同じ高さに感じられることは誰もが経験しています。この現象を説明するために,時間説が導入されました。これは基本波が除去された複合音でも,周期は基本波と同じ周期を持ちますので,この周期と同期して神経が発火すれば基本周期が検出できる。すなわち,時間情報から音の高さが知覚可能ということになります。 時間説については AM 音を用いてぼう大な実験が行われ数多くの知見が得られました。これによって一時期(1960年代),基本波のない音の高さの知覚は,周期性(時間情報)によっていると解釈されていました。しかし,研究が進むにつれて時間説にもいろいろ矛盾する事実,例えば,高調波間の位相効果が観察されない,高調波の次数にも上限があるなどが明らかにされ,時間説のみではすべての現象を説明できなくなりました。そこで,現在では時間情報,周波数情報相俟って高さの知覚が行われているものと考えられています。[詳細は,難波精一郎編「聴覚ハンドブック」第2章 高さ(ナカニシヤ出版,1984年)をご参照下さい。]

江端 正直(熊本大)