日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (131)

Q:

インパルス応答の測定法の一つにTSP法(Time-Stretched-Pulse method)というものがありますが、なぜ高S/N比のインパルス応答計測ができるのですか?そもそも時間的に引き延ばした長い信号を使っても、場のノイズに対する信号の比は変わらないと思うのですが?確かに、音源信号の長さを2倍にすれば+3dB、ですがその2倍の放射時間の間には、そこに含まれるノイズも2倍になるわけで、差し引き±0dBでは?また、分析時に引き延ばした信号を圧縮することで、結局音場において高エネルギーのインパルスを放射したのと等価になる、という説明も見ることがありますが、長い信号を用いれば用いるほど、そこに含まれるノイズと逆TSPとのたたみ込み結果も増大するのでは?

A:

ご質問の最後にあるとおり、TSP法とは時間的に引き延ばしたパルスを音源信号とし、それによる応答に時間反転TSP信号を畳み込むことで引き延ばされた信号を圧縮(インパルス化)する方法です。S/N比の改善ということに関する一つの解釈は、時間反転信号をたたみ込むということが、音源信号との相関をとるということに相当していることです。これはTSP信号の時間反転信号がTSP信号の逆フィルタ(複素周波数特性の逆数)と等しいからです。(厳密な表現はhttp://tosa.mri.co.jp/sounddb/tsp/tsp_circular.htmを参照して下さい。)応答信号と時間反転TSP信号との畳み込みを周波数軸上で表現すると、クロススペクトル法と等価となります。詳しくは、本誌2002年10月号(669頁〜)の解説記事を訂正記事(2002年12月号の会告(ix))と併せてご覧ください。
 確かに、TSP法はその信号の性質上、時間伸長・圧縮のイメージが強いのですが、長くより多くのエネルギーを放射してS/N比を稼ぐというよりは、長い音源信号を用いることによって、おのずと分析時に相関をとる時間が長くなり、その結果よりS/N比が稼げる、という具合に解釈もできるでしょう。
 長い信号を用いれば用いるほど、ノイズと逆TSPとの畳み込み結果は増大しますが、圧縮によって集約されるパルスのエネルギーは相関の原理によってそれ以上に増大します。同期加算において、ノイズとノイズを足すと+3dB、対して同期された応答が足し合わされると+6dB、すなわち同期加算2回で差し引き+3dBのS/N比の改善と同じ事です。
 最後に余談ですが、近年TSP信号はより長いものが使われるようになり、もはやパルスの範囲ではないということで、ISO規格ではSwept-sine信号等への名称変更が議論されているようです。

(佐藤史明:千葉工業大学)