日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (134)

Q:

キャビテーションとは、どのようなものですか。また、超音波洗浄との関係を教えてください。

A:

キャビテーションという現象は、19世紀の末に、船のスクリューの周りに多数の気泡が発生し、船の速度が上がりにくくなることで発見された。スクリューの高速回転によって、スクリューの周りに圧力が水の飽和蒸気圧よりも小さくなる領域ができ、あたかも水が沸騰するかのように気泡が発生する現象である。「沸騰」との違いは、キャビテーションにおいては、液体の圧力が時間と共に(あるいは空間的に)変化していて、発生した気泡は、圧力の高くなったときに、圧壊と呼ばれる激しい収縮をすることである。気泡の圧壊のために、船のスクリューは腐食することが知られている。
 周波数が20kHz以上の超音波によってキャビテーションが起こるのは、通常は超音波の圧力振幅が1気圧を超えたときであり、圧力が水の飽和蒸気圧よりも更に低下して“負”になる場合である。これは、船のスクリューの場合とは違って、圧力が小さくなっている時間が数十マイクロ秒以下と短いためである。“負圧”とは、液体と固体において見られ気体では見られない圧力で、液体(又は固体)のある部分を、周りから引っ張り引き裂く力が働く。このとき、液体に溶けていた気体が溶けきれなくなって気泡が発生し、気泡内に水蒸気が流入する。気体と水蒸気からなる気泡は、引き続いて訪れる超音波の正圧により圧壊し、気泡の収縮速度は、液体中の音速程度にまで達する。そして、気泡内の気体と水蒸気が液体密度まで圧縮されたときに、気泡の収縮は突然止まり、反発して膨張に転ずる。気泡の収縮が突然止まったときに、気泡から液体中に衝撃波が放射される。この衝撃波は、気泡を中心とする球面波で、気泡からの距離の2乗に反比例してエネルギー密度が減少していくが、気泡近傍では、1000気圧以上の圧力がある。気泡から放射される衝撃波が、船のスクリューの腐食の原因となる。また、固体表面上では、気泡の圧壊が非対称となり、気泡を貫通して液体のジェットが固体表面を打つ。これも、船のスクリューの腐食の原因と考えられている。
 超音波洗浄器は、船のスクリューを腐食させるような気泡の作用を、プラスに利用したものであり、気泡から放射される衝撃波やジェットが、固体表面上の汚れを取り除く。現在では、メガネや医療器具などの洗浄用として、周波数20kHzから50kHzの超音波洗浄器が身近なものとして使われている。洗浄液を併用することもあるが、キャビテーションに起因する液体の流れによって、洗浄液と被洗浄物体との接触が促進されるなどして、洗浄能力は増す。また、1MHz程度の高周波の超音波洗浄器が、半導体の洗浄などに使われているが、この場合は、主に音響流や超音波に伴う加速度により洗浄されると考えられ、キャビテーションの効果は小さいとされていて、いまだ完全には解明されていない。

(安井久一:産総研)