日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (138)

Q:

スピーカの特性は一般に大型のものほど低域がのびているようですが、スピーカと比べて遙かに小さいヘッドホンの特性が低域までのびているのはなぜでしょうか。

A:

スピーカでもヘッドホンでも、振動板が空気を動かす(押しのけ、引き込む)ことで音を出しています。同じ大きさ(音圧)の音を出すために動かす空気の体積は周波数の2乗に反比例します。例えば100 Hzの音と同じ大きさの20 Hz(100 Hzの1/5)の音を出すには25倍(5の2乗)の容積の空気を動かさなければなりません。動かす空気の体積は振動板の面積と振幅の掛け算で与えられますので、大きな振動板の方が小さな振幅で同じ体積の空気を動かすことができて有利です。したがって、一般に低い音を放射するスピーカには大型の振動板が使われます。
しかし、スピーカから放射される音の大きさは原理的にスピーカからの距離におおむね反比例しますので、小さな振動板からの音でも近くで聞けば大きく聞こえます。例えば、同じスピーカから出される音でも、5mの遠方での大きさに比べ、50cm(5mの1/10)での大きさは約10倍になります。ヘッドホンは耳のすぐそば、数mm〜1cm位の距離で動作しますので、小さな振動板でも出てくる音は大きく聞こえることになります。
一方、スピーカやヘッドホンで出せる最も低い周波数は、大きさとは無関係に振動板の最低共振周波数で決まります。共振周波数は振動板を支えているばねのスチフネス(剛さ)と振動板の質量の比の平方根に比例します。多くのオーディオシステム用スピーカは丈夫な紙の振動板を用いており、その最低共振周波数は40〜80 Hz位で、実際にはこれより少し低い周波数が出しうる限界となります。これに比べ、多くのヘッドホンの振動板はプラスチック成型品で、軽いわりにスチフネスを小さくしにくく、最低共振周波数が高めになります。このため、ヘッドホンのドライバユニットの最低共振周波数は100〜200 Hz位が一般的ですが、振動板と耳との間を自由空間にしないで部屋でつなぐと(例えばヘッドホンを耳に接触させると)低い音が大きくなる効果を利用できます。クッションの寸法や軟らかさを調節してこの効果を積極的に利用している製品も見られます。
このように、ヘッドホンは耳との結合の仕方で特性が大幅に変わるので、スピーカに比べいろいろ工夫をこらして設計する余地が大きく、極めて多様な構成のものが商品になっています。

(大賀俊郎:芝浦工大・工)