日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (141)

Q:

「MIDIには時間誤差が多く含まれるため,実験には使えない」とよく耳にしますが,MIDIを実験で用いる場合,どのような点に気をつけなければならないのでしょうか?

A:

MIDI(Musical Instrument Digital Interface)は1980年代最初に登場して以来,電子楽器の演奏などにおいて広く一般に用いられていますが,MIDIを研究で用いる場合には注意が必要です.
MIDIで演奏を記録する場合には,様々な記録誤差が生じることを忘れてはなりません.例えばMIDIピアノ演奏の場合,打鍵時刻の記録においては数ミリ秒から数十ミリ秒程度の不確定な誤差が生じ,また同時打鍵数が増えるとその誤差が大きくなると言われています.これは二つの音のずれを検知する最小時間差(エコー検知限という)や音の発音ずれに基づく音色知覚に関する研究で測定されてきた時間差に匹敵する誤差となります.音楽演奏において重要な項目は時間制御であることがこれまでに分かっているため,音楽演奏を記録するのにこのような時間誤差が含まれることは深刻です.つまり,MIDI楽器を用いて演奏を正確に記録することはほぼ不可能なのです.
MIDIを演奏に用いる場合(ここでは奏者がMIDI楽器を操作し,その信号をMIDI音源に送信し発音させるような使い方のこと),前者の場合と比べてMIDI発音に関する時間誤差が加わるため,誤差が更に加わってしまいます.例えばMIDIシーケンサで実験呈示刺激を作成し,MIDIシーケンサから直接再生するとこれらの誤差が含まれてしまうため,MIDIを実験刺激呈示装置として用いることは不適切と言えます.
ではMIDIは実験に本当に使えないのでしょうか?もちろんこれらの誤差が問題にならない程度の実験の範囲内なら構わないのでしょうが,MIDIを用いて厳密な心理実験や聴覚実験を行なうのは危険です.時間制度に関わる実験でMIDIを用いる場合,一度波形に変換してから用いるのが通常ですが,どうしてもMIDIをそのまま使うのであれば,精度の測定が必要です.これまでMIDI専用の計測ボードの開発やMIDIドラムを用いた記録精度の測定例などが報告されていますが,まだまだ研究の途中段階と言えます.今後は研究者にとって便利な,すなわち精度がある程度確保された新しい規格が望まれることでしょう.

(三浦雅展:龍谷大・理工)