日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (142)

Q:

音響センシング技術はその応用範囲が広く,今回の小特集で取り上げられたもの以外にも様々なものがあると思います。他にどのようなものがあるのか教えてください。

A:

ご指摘の通り,音響センシング技術は領域が大変広く,様々な技術を含んでいます。以下では,今回の小特集の内容を補完するような形で,その内の幾つかを簡単に紹介しましょう。
魚群探知技術よりも低い周波数(100〜500Hzあたり)を使う例の一つに,海洋音響トモグラフィがあります[1,2]。数千キロメートル四方の広大な海洋域では,大きさが数百キロメートルにおよぶ渦が発生しますが,このように大きな海洋中の速度分布を,一度に短時間で測定可能です。
“サブボトムプロファイラ”という海底下数十メートルの範囲の地層を精密探査する装置もあり[1],地層探査装置としては高めの周波数(数k〜数十kHzあたり)が使われます。大陸棚や外洋の海底表層付近の鉱物資源調査,海底土木工事用の基礎調査,海底ケーブルやパイプラインなどの埋設ルートの調査などに用いられています。
20k〜40kHzあたりの空中超音波を使うものとしては,自動車のバック及びコーナーセンサがあります[1,3]。やまびこと同じ原理を利用したもので,超音波パルスを発射し,反射波が戻るまでの時間を測ることで,障害物までの距離を求めます。同じ原理で,障害物の存在を視覚障害者に知らせる“聴覚レーダ”も研究されています[4]。
数MHzあたりの周波数を利用するものには,医用分野での超音波利用があります[1-4]。「海水の音響インピーダンスと羊水のそれとはほぼ同じであるから,魚群探知技術を応用すれば胎児の様子も見えるはず」という洞察から,胎児の診断技術が生まれました。ただ,魚は海水中の数十〜数百mあたりに生息するのに対し,胎児は腹部表面より10〜20cmの所にいるため,魚群探知機よりも高い周波数が使用されています。数MHzあたりの超音波は,眼・心臓・腹部の診断にも用いられ,ドップラ効果を使って心臓や血管内の血流を捉える装置もあります。また,体内の奥深い部位の精密な画像が得られる超音波内視鏡や,生体試料の音速分布を測定することで,短時間に癌の診断が可能な超音波定量解析装置などもあります。
非常に高い周波数帯域(100MHz〜GHz帯)を用いるものとしては,超音波顕微鏡があります。超音波が伝わる速さや伝わり易さを観測することによって,試料の硬さや方向による性質の違いを数μmの分解能で可視化します[1-4]。
音響センシング技術は,これからも新しい「目」を提供し続けることでしょう。

参考文献
[1] 本多敬介,超音波の世界(NHKブックス,東京,1994).
[2] 中村健太郎,“音響・振動センサ”,電学論E,122,187‐192(2002).
[3] 中村健太郎,図解雑学 音のしくみ”(ナツメ社,東京,2001).
[4] 音響学会,音のなんでも小事典(講談社,東京,1996).

齊藤望(アルパイン)竹井学(NEC)