日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (147)

Q:

超音波でねずみを撃退する商品があると聞きました。どのようなものなのでしょうか?

A:

ねずみに超音波領域の聴力があることは古くから知られており,1940年代には12kHz程度までの聴力が報告されています。その後,更に高い周波数領域の聴力を多くの研究者が確認しています。その研究手法は学習行動から判断するものですが,鄭らは聴覚神経の反応から聴力を推定しています[1]。それによると100dBの音圧レベルに対し,0.2kHz〜68kHz付近までの可聴範囲があり,20〜50kHz帯がもっとも聴力が良いと報告しています。これは学習行動による結果と概ね傾向が一致しています。
さて,いわゆる「超音波ねずみ撃退器」ですが,ねずみを撃退する根拠として,前述のねずみの最も聴感度の良い周波数帯の超音波を,耐えられないような音量で照射することにより嫌悪させる,というのが基本的な考えです。丁度我々が大きな騒音に耐えられない,と言う発想です。特に強力型と称する機器は,25kHz前後の単一波を連続的にあるいは間欠的に,1mの距離で120dB程度の音圧で発生します。また,設置後しばらくすると慣れにより効果が薄れる,とのことから,18〜25kHz程度の範囲で超音波周波数をランダムに変化させる製品もあります。企業としては製品の優秀性をPRするつもりで高音圧を謳うと,ユーザーから人の健康への影響を懸念する声も出てきます。また,超音波領域だから人間には騒音ならない,と一般に考えられそうですが,若い方達の中には聞くことができ不快を訴える方もいます。機器の駆動時間帯を工夫する必要があると言えます。
一方,ねずみはかなり複雑な超音波を発生し,いろいろな形で使い分けていることが分かってきました。そして,ねずみの超音波シグナルの意味を解明しようとする試みがされました[2]。それによると,頻発する超音波の周波数は成獣で25kHz前後,幼獣で40kHz前後にあり,聴力のもっとも感度の良いところに一致します。もしこれらの超音波シグナルがコミュニケーション手段として使われているとしたら,超音波ねずみ撃退器から離れたところでは,撃退器からの超音波が程よい音量となり,ねずみを誘引するシグナルとして働く可能性もあります。
実験的に超音波をねずみに照射すると,騒音に耐えるがごとく明らかに身構えている様子が見られますが,蜘蛛の子を散らすように逃げていく行動は見られませんでした。超音波ねずみ撃退器の設置に当たっては,ねずみのエサになるようなものを置かない,複数台を配置する,といったソフト面も含めて検討する必要があるといえます。

文献
[1] 鄭長木,南定雄,伊藤挙,堀川順生,村田計一,“ラットの超音波聴力について,”聴覚研究会資料H-84-44(1984)
[2] 加藤光吉,渡辺洋介,“ネズミの超音波を探る,”音響学会誌,58,355-359(2002)

(加藤光吉:都立産業技術研究所)