日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (154)

Q:

発話中の調音動作を測定するのに EMA (あるいは EMMA) と呼ばれるものを聞いたことがありますが, それはどのようなものですか?

A:

EMA (EMMA) は, 音声発話時の顎, 唇, 舌, 軟口蓋などの動き方を観測する, 磁気センサ (モーションキャプチャ) です。国内では, 直流磁界を用いたシステムが熊本大学で初めに考案されました。現在では, 多数のマーカを同時に使える交流磁界方式が主流になっています。この方式では, 頭部周辺に複数の送信コイルを配置して異なる周波数の磁界を生成し, マーカである受信コイルを調音器官に装着して, その位置や傾きを数百 Hz のレートでリアルタイムに測定できます。ゲッチンゲン大学で考案されたシステムは EMA (electromagnetic articulograph), MIT のシステムは EMMA (electromagnetic midsagittal articulometer) と呼ばれていますが, ドイツの Carstens 社がゲッチンゲンのシステムを製造・販売しているため, EMA という名前が広く使われています。
  調音器官の運動をできるだけ妨げないようにするため, Carstens 社のシステムでは直径 2 mm, 幅 3 mm という小型の受信コイルが使用されています。実験では, 例えば, 顎, 上唇, 下唇, 軟口蓋にそれぞれ 1 個, 舌に 3〜4 個のマーカを使用します。頭部の位置をモニタするときには, 鼻や上顎にもマーカを装着します。声道の断面を観測する MRI やレントゲン写真では, 通常, 口の形は固定されますが, EMA では連続音声における口の動きをダイナミックに観測できる点が特徴です。また, 画像処理のような後処理が不要で, 観測データをすぐに分析できます。マイクロホンのほか, 電気式喉頭計 (EGG), ファイバスコープ, 超音波スキャナなどの観測装置を同時に使用して, 音声の発話過程を多角的に観測できるメリットもあります。
  当初, ゲッチンゲン大学や MIT のシステムには2次元計測で, 観測面である被験者の正中面上にマーカを装着する必要がありました。その後, ミュンヘン大学を中心に3次元計測の研究が進められ, 現在では Carstens 社よりシステムが販売されています。また, これとは別に, 九州大学と NTT の間で3次元計測の検討が行われています。更に, 音声関係だけではなく, 歯学関係の研究機関でも盛んにシステムの構築や応用が研究されています。

鏑木時彦 (九州大院)