日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (161)

Q:

パルス音の間隔が十分に長いと,その「長短」が知覚できますが,ある値よりも短くなると音の「高低」として知覚されます。このような知覚イメージの変化は何故起こるのでしょうか?

A:

音とは,大気中を伝わる圧力の変動つまり振動です。振動の観察には,ある一瞬の状態では不足であり,ある時間範囲に渡ってその変化を見る必要があります。パルスが等間隔で到来する場合,圧力の変化に周期性が生じ,その周期がある程度短い場合に我々はピッチという音の感覚を感じます。
  このような感覚を持つ仕組みは,基本的に現在到来している振動と,それを遅延経路に通した信号との共起検出をすることにより実現されていると考えられます。つまり,数学的には自己相関を取ることに相当します。数学的な自己相関では,いくらでもラグを大きくできますが,聴覚系では遅延経路に蓄えられる遅延の上限が存在します。この遅延の上限が,知覚されるピッチの低い側の限界に対応し,それはおおよそ 35 ms(周波数30 Hz程度)という実験結果が報告されています。上限を設ける理由は恐らくスペースファクタと考えられます。つまり,異なる高さ(基本周期の違い)に対応するには,それぞれに対応した遅延量を持った経路を取り揃えている必要があるので,環境に適応するために必要でない遅延量は用意していないと考えられます。ちなみに,そのような遅延経路と遅延のない信号との共起検出をするのは,脳幹にある下丘で行っていることを示唆する生理学的な観測結果が得られています。なお,音として聞こえる周波数範囲は約 20 Hz から 20 kHz ということが多くの教科書に書いてあり,30 Hz という値はその下限よりも高いのでは,という 疑問を持たれる方もいると思います。
  しかし,ここでのピッチとは,音として感じるか,感じないかというごく主観的な判断に頼るだけでなく,例えば旋律を奏でたときにその音程感がしっかりと感じられるかという機能の存在が重視されます。上述したような遅延経路による共起検出を可能とする背景には,聴覚抹消系で生じた振動の位相を反映した神経活動が必要となり(位相固定)それには周波数の上限が存在し,3〜5 kHz 付近で位相固定が不安定になってくることも生理学的に観察されています。
  従って,ピッチの高い方の上限はおよそ 4 kHz となっており,いわゆる可聴範囲とピッチの知覚範囲というものが一致するべきものであるということは全くありません。

津崎 実 (京都市立芸大)