日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (167)

Q:

蘇言機とはどういうものですか?

A:

日本に初めて渡来した錫箔蓄音機のことです。当時は名前が確定しておらず蘇言機とか蘇音機などと呼ばれていました。東京大学に招聘された英国人ユーイング (James Alfred Ewing: 1855-1935) は,エジソンがフォノグラフを発明したことを知り,1878 (明治11) 年の来日に際して本装置をエジンバラの J. Milne & Son Makers に製作させ,日本に持参しました。ユーイングはエジンバラ大学を卒業後,トムソン (William Thomson: 1824-1907: ケルビン卿) のもとで大西洋海底電線敷設の仕事などをしています。1878年より東京大学で機械学や磁気学を講義し,磁気ヒステリシス現象の研究をするかたわら,水平振り子型の地震計を考案し,工部大学校教師のミルンらと日本地震学会を創立するなど,地震学の研究にも貢献しました。
  ユーイングは明治11年11月16日に東京大学理学部の実験室で,蘇言機を使って日本最初の録音・再生の実験を行いました。更に翌年3月28には東京商法会議所で,4月12日には浅草の井生村楼で一般向けの公開実験を行っています。この時東京日日新聞社社長の福地桜痴は「コンナ機械ガデキルト新聞屋ハ困ル」と吹き込み,再生したそうです。東大での実験を記念して,11月16日が1958年に録音文化の日とされました。
  蘇言機の本体は,長さ 50 cm ほどの鉄棒の真ん中に直径約 11 cm の金属製円筒を取り付けた,串団子のような形をしています。鉄棒にはネジが切られていて,回転させると鉄棒は円筒と一緒にネジのように回転しながら少しずつ移動します。円筒の表面には錫箔を巻いておきます。銅の振動板の前に金属の刃を取り付けた物を錫箔と接するように置き,振動板に向かって話をしながら円筒を回転させると,刃が錫箔表面を削り音が記録されます。次に円筒を元の位置に戻し同じように回転させると,今度は逆に錫箔に刻まれた溝が刃を通し振動板を振るわせ音が再生されます。
  音の記録が可能になったことは,文化の保存や伝承にとって大きな意味を持っています。本機は平成16年6月,重要文化財に指定されました。複製品が上野の国立科学博物館地球館2階に展示されています。
(http://shinkan.kahaku.go.jp/floor/2f_jp.jsp)。

前島 正裕(国立科学博物館理工学研究部)