日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (168)

Q:

音楽の世界では A = 440 Hz にチューニングすることが標準と聞いていますが,これは本当に守られているのでしょうか?

A:

英米式音名の A4 音を 440 Hz とすることが定められたのは,1939年,ロンドンにおける国際会議でのことでした。長い音楽史の中で見ると,ごく最近の出来事です。後にこの決定は ISO にも採用されました。それまでの基準周波数は,1885年にウィーンの会議で決められた 435 Hz で,それ以前は国際基準は存在しなかったようです。地域と時代によって約 390 Hz 〜 約 460 Hz の様々な高さの音が混在していたようです。何故過去の周波数が分かるかというと,当時のオルガンパイプや音叉が残っているからです。オルガンは,修理の年代と内容が克明に記されていることがあり,いつの年代であったかも確定できるのです。そのような中,国や地域によって異なっていた基準周波数を統一するために国際基準が定められました。従って,現在でも古楽器演奏では当時の音楽をそのまま楽しむために,作曲された時代と地域に合わせ,415 Hz,460 Hz,430 Hz などに調律することがあります。例えば 415 Hz は 440 Hz より 101 セント (約半音) 低くなりますので,だれでも耳で聞いてはっきり違いが分かります。 一方,現代の楽器を用いる場合でも,440 Hz から幾分外れた周波数が使われることも多いのが現状です。日本のオーケストラの多くは 442 Hz を採用していることが多いようですし,海外のオーケストラの中には 445 Hz や 446 Hz を採用しているところがあります。446 Hz の場合,440 Hz より 26 セントも高い音です。その方が弦楽器の張りが強くなり,よく響くようになる,と主張する音楽家もいます。「A = 440 Hz にチューニングする」というのは標準というより,楽器製作のときの目安,くらいに考えられているようです。
  また,音律の標準とされる平均律も,守られているのは電子楽器などごく一部だけです。楽器やその部品 (弦) などには規格があり,現代のメーカは厳格に守っていますが,実際に今も演奏会で使用されている古い名器が規格外であることも珍しくありません。
  個性的であることが尊ばれる芸術に,絶対的な「標準」は馴染まないのかもしれませんね。

森 太郎(国立音楽大学)