日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (169)

Q:

なぜクラリネットとフルートはほぼ同じ管長なのに音域が異なるのでしょうか。

A:

ご質問のように,B♭管クラリネットの最低音は実音でD3,C管フルートの最低音はC4です。クラリネットの方が約1オクターブ低い (周波数が約半分) の音を出せます。その理由は,クラリネットは片端閉止,フルートは両端開口の楽器だからです。クラリネットの入力端はリードのついたマウスピースによって閉じられ,更に圧力供給源となる奏者の口により密閉されます。フルート奏者は唇を入力端 (歌口) に触れてはいますが,よく見ると歌口の大部分は開いています。
  境界条件の違いにより,クラリネットの共鳴周波数はフルートの約半分になります。最低音を鳴らすとき,どちらの楽器でも管全体が共鳴しますが,共鳴状態が異なります。クラリネットでは,入力端に大きな音圧,出力端に大きな粒子速度が発生します。これは1/4波長共鳴と呼ばれます。波長は管長の4倍です。フルートでは,管中央に大きな音圧,両端に大きな粒子速度が発生します。これらは1/2波長共鳴と呼ばれ,波長は管長の2倍です。つまり,クラリネットの共鳴波長はフルートの2倍であり,共鳴周波数は半分となります。
  管楽器では,同じ指づかい,または,レジスタホールを開くことで高い音を出すことがあります。この奏法をオーバブローといいます。オーバブローしたときの音程は,クラリネットでは1オクターブと5度,フルートでは1オクターブです。つまり,前者では3倍,後者では2倍高い周波数の音にジャンプします。この違いも境界条件の違いで説明できます。オーバブローすると,クラリネットでは第2モードである3/4波長共鳴が起きます。これは1/4波長共鳴より3倍高い周波数を持っています。一方,フルートの第2モードは1波長共鳴で。これは1/2波長共鳴より2倍高い周波数を持ちます。
  フルートの頭部管をクラリネットに取り付けたらどうなるでしょう?いつもと同じ指づかいでクラリネットの低音域を演奏すると,1オクターブ高いフルートの音でメロディが聞こえてきます。オーバブローすると,音がフルートのように1オクターブジャンプします。この楽しいデモ,アメリカの著名な楽器音響研究者 Benade のおはこだったそうです。

足立 整治(フラウンホーファー研究所)