日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (170)

Q:

人については,可聴範囲が 20 Hz から 20 kHz,聴感補正として A 特性があることはよく知られていますが,動物(猛禽類,家畜,魚類等)について,そのような情報があれば教えて下さい。

A:

動物にどのような音がどのくらい聞こえるのかを測るには,条件付けによる方法を使います。音が聞こえたら何かの応答(レバーを押すなど)をし,聞こえなかったら何もせずに数秒待つことを,動物に教えます。応答に対して餌などの報酬を与えることで,動物は音が聞こえたときのみ応答することを学びます。こうしておいて,様々な周波数で音が 50 % の確率で聞こえるときの音圧レベルを記録します。実際には,聞こえていないのに応答する場合,聞こえたのに応答しない場合などもありますが,それらは信号検出理論を用いて調整し,最終的に 50 % 程度聞こえる音圧レベルを求めます。これが聴力曲線です。
  この曲線上で,音圧レベルが最も低い点の周波数を最適周波数,その音圧レベルを最小音圧レベルといい,そこから 40 dB 上に引いた線が交わるところの低い方の周波数と高い方の周波数を求めて,それを可聴範囲と呼びます。こう定義すると,ヒトの可聴範囲は 60 Hz から 16 kHz 程度で,最適周波数は 4 kHz,最小音圧レベルは 0 dB です。
  魚類には耳のよいものと悪いものがあります。前者は浮き袋と内耳を接続する骨(ウエーバー小骨)があり,これにより浮き袋の振動を内耳に伝えることができます。フナはこの種の魚で,最適周波数は 0.5 〜 2 kHz,最小音圧レベルは 30 dB,可聴範囲は 100 Hz から 2.5 kHz です。耳の悪いものでは,最適周波数 0.5 kHz,最小音圧レベル 50 dB,可聴範囲 100 〜 700 Hz です。耳の良い魚類には音声でコミュニケーションをしているものが多くあります。
  鳥類は超音波が聞こえると思っている方は多いようですが,それは誤りです。ヒトよりずっと低い周波数までしか聞こえません。これは,鳥類が狭い範囲で鋭敏な聴力を持つ方が適応的だったからだと思われます。鳥類では,一般に,最適周波数 2 〜 3 kHz,最小音圧レベル 5 dB,可聴範囲 200 Hz 〜 8 kHz です。フクロウやタカなどの猛禽類では,最小音圧レベルが -20 dB 程度でも聞こえる種があります。これはヒトよりずっと鋭敏な聴力ですが,これらの猛禽でも可聴範囲は一般の鳥類とあまり変わりません。
  ほ乳類では,高いほうの可聴音域は頭の大きさにかなり依存します。これは,ほ乳類では音響コミュニケーションよりも音源の定位に重きをおいて聴覚を進化させてきたからではないかと思われます。頭が小さい動物では高い周波数でも左右の耳に位相差が生じるからです。小型のほ乳類ほど高い音まで聞こえるようになっており,イヌでは最適周波数は 8 kHz,最小音圧レベルは 0 dB,可聴範囲は 200 Hz から 50 kHz ですが,コウモリでは可聴域は 120 kHz にまで達します。しかし一般に,可聴範囲が広い動物は,聞こえる周波数内の二つの音を聞き分ける能力が犠牲になっています。ヒトはほ乳類の中では可聴範囲は狭いほうですが,その代わり高い音弁別の能力を持っている種であると言えます。

岡ノ谷 一夫(理化学研究所)