日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (171)

Q:

最近『スピーチプライバシー』という用語が使われており,アメリカ音響学会では2006年に『Speech Privacy』50周年記念セッションも行われ,長い研究の歴史を持っているようです。どのような場合に使用されてきたのでしょうか?

A:

スピーチプライバシーという用語は会話の秘密性に関連して,最近使われ始めましたが,欧米では機密保持だけでなくオフィス音環境の評価において長い歴史を持っています。スピーチプライバシーを初めて使用したアメリカの状況を見ると,①他人の会話が邪魔にならない執務空間の音環境評価,と②会話の内容が聞き取れない秘話性の評価,という二面性を持ち,前者を『Speech Privacy』,後者を『Speech Security』というように区別して使用されています。 オフィス音環境における『Speech Privacy』は,侵入してくる会話は聞こえるが,内容が理解できない状態のときにプライバシーが高い (Confidentiality) と評価するのに対して,『Speech Security』では会話のリズムが聞き取れない状態から全く聞こえないという状態までを評価の対象としている点が異なります。『Speech Privacy』は ASTM E1130 でも使用されていますが,『Speech Security』は比較的新しい用語です。執務空間における音の不満からスピーチプライバシーの研究が始まったこともあって,アメリカではスピーチプライバシーといえば,会話の秘話性ではなく,オフィスの音環境評価を目的としている点は注意が必要です。 アメリカでの『Speech Privacy』の設計では,プライバシーの感覚が侵入してくる音の明瞭度と負の相関があることに着目して提案された PI (Privacy Index) = 1 − AI (Articulation Index) が目標値として使用されています。これをもとに,会話の騒音レベル,室内音響条件,遮音性能,暗騒音レベルを含む環境分析シートで PI の評価を行い,ABC ルール (Absorb (吸音),Block (建築的遮断),Cover Up) と呼ばれる設計方法で改善・検討するのが一般的です。 この方法は,音響コンサルタントを中心にオフィス設計やオフィス音環境評価でも使用され効果をあげています。ABC ルールの Cover Up は,サウンドマスキングの設計を意味しています。日本での例はまだ少ないですが,オープンプランオフィスの中でもスピーチプライバシーを制御するために考案され,アメリカの保険会社,金融施設,医療施設などで実際に効果をあげています。このように,アメリカでの『Speech Privacy』の研究の中で,1999年以降,金融施設や医療機関での個人情報保護に関連する法律が制定され,盗聴の防止なども含む秘話性に関するテーマでも使用されるようになりました。 現在,医療施設における音響設計ガイドライン作成が進められており,スピーチプライバシーの設計指針も議論されています。日本においては,隣接会議室での音漏れや,個人情報を取り扱う会話の周囲への伝搬など,秘話性に関する問題で主に使用されていますが,アメリカの『Speech Privacy』で対象とした執務空間の音環境評価についての研究や報告はまだ多くはありません。日本にあった評価・解決方法を考える時期に来ていると思います。

清水 寧(ヤマハ(株))