日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (174)

Q:

フルートでは,気柱の固有周波数の音だけでなく,その近辺の音高も出せるのは何故ですか?経験的には以下のA,Bで,高めの音高が得られます。逆にすると低くなります。
A 息の速度を増加させる。
B 楽器を少し回転させ歌口を演奏者側へ向ける。

A:

フルートの気柱に限らず,あらゆる振動体は自由振動させるとその固有周波数で振動します。でも,外部から力を加えて強制振動させると固有周波数以外でも振動させることができます。振り子を例にとれば,振り子を変位させた後,手を触れずに振動させるのが自由振動です。振り子の自由振動に逆らって,おもりに力を加えてやると,固有周波数より多少高い/低い周波数で振動させることも可能です。例えば,おもりが最高点に達する前におもりを手で押し返してやれば周波数は高くなりますね。フルートの発音でも,'手' の働きをするものが存在します。それは,演奏者の唇から歌口へのエッジへ向かって吹き込まれる空気ジェット(息)です。
  フルートの気柱が振動しているとき,歌口からは空気が勢いよく出入りしています。ジェットは,この空気の出入りに反応して,蛇行しながらリードのように振動します。そして,ジェットが歌口へもぐり込む瞬間には空気が注入されます。気柱振動を維持するためには,歌口音圧が最大のとき空気が注入される必要があります。(この場合,ジェットは気柱振動にうまくエネルギーを伝達できます。エネルギーが伝達されないと気柱振動は音響放射などのため減衰し,音がでません。)このタイミングは,唇からエッジまでの距離がジェット蛇行波長の約半分となる場合に実現されることが知られています。
  さて,Aのように息の速度を増加させると,ジェットの蛇行波長は長くなります。条件を満たすためには,周波数を増加させて波長を短くする必要があります。つまり音高が高くなります。Bのようにすれば,唇とエッジの距離が短くなります。そのため,より短い波長が必要となり,音高が高くなります。ただし,Bの方法は歌口をより多く塞ぐことになり,開口端補正が増加します。そのため,気柱の固有周波数が下がり,音高が低くなる効果もあります。同僚の Hubert 君が私のために試してくれた実験ではこちらの効果の方が強く現れました。

足立 整治(フラウンホーファー研究所)