日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (179)

Q:

携帯音楽プレーヤを大音量で聴き続けると聴力を失う危険があるそうですが,実際どれぐらいの音量で聴いているのでしょうか?

A:

2008年10月14日の朝日新聞に掲載された「携帯プレーヤ長期・大音量で聴力失う恐れ 欧州委」という記事を私も大変興味を持って読んだところです。ここでは,「長期・大音量」と書いてありますが,この記事ではどのくらいの期間,どのくらいの音量を聞き続けたらということが書いてありません。音響学を専門としない読者はどのように解釈したのか興味のあることろです。
  大きな音の労働環境で長年働いていると,騒音性聴力損失を引き起こすことはご存じと思います。騒音の人体への影響の基本的な概念を規定した国際規格として,ISO 1999:1990 があり,この中では職業性騒音暴露と騒音性聴力損失推定の計算方法が示されています。そこでは,1日の労働時間を8時間として,週40時間,40年間等しい騒音に曝された場合を目安としています。米国環境保護庁で,不特定多数の労働者について膨大な調査をした結果,5 % の危険率で 5 dB の騒音性聴力損失が発生するレベル (LAeq8h) を 75 dB としています。労働環境の音と携帯プレーヤで聞くロック音楽,クラシック音楽の影響が同じかどうかとかいう議論はあるかも知れませんが,聴覚の負荷という意味で違いはありません。
  携帯プレーヤを利用する若者の聴力への影響を調べるため,2000年に ISO 11904-1 の測定に準拠して,外耳道内にミニチュアマイクロホンを挿入し,ヘッドホンからの聴取音を外耳道内で実測した経験があります[1]。被検者33名について,それぞれ日常使用している携帯音響機器,好みの音楽ソースを用い,通常の聴取レベルで,1/3 オクターブバンドごとの再生音圧レベルを90秒間にわたって求めました。
  測定結果,被検者の中で最も大きいレベルは 86 dB,最小は 49 dB でした。音圧レベルをクラス分けすると 80 dB 以上の者が5名,70〜79 dB の者が11名,60〜69 dB の者が15名,50〜59 dB の者が1名,50 dB 以下の者が1名でした。この結果では,聴取レベル 80 dB 以上の者が聴力損失を引き起こす可能性が高いと言えますが,その割合は 15 % 程度でした。測定終了後のアンケート調査によれば,測定に参加した被検者は,大きい音を聴取すると聴力に悪影響のあることを理解しており,普段から聴取レベルに気を遣いながら音楽を聞いているという回答が多数でした。分別のある大学生を対象にしたことがこのような結果になったと考えられます。なお,若い間に大きい音に接する機会が多いと,加齢性難聴が早く起こるという見方もあります。

文献
[1] 齋藤文孝,ヘリ ライティネン,鈴木陽一,"音楽による音響暴露量と聴力に関する若者の意識," 音響学会誌,63,233-238 (2007).

齋藤 文孝(東北大学)