日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (181)

Q:

オーディオ関係のチラシに,1 ビット量子化という言葉をよくみかけるのですが,どのような量子化なのでしょうか?音声のサンプリングは 16 ビットで行うことが多いのですが,その 16 を 1 にしたもの,なのでしょうか?

A:

アナログ信号のディジタル化には PCM (パルス符号変調) 方式が広く用いられています。PCM 方式では時間方向の離散化である標本化と振幅方向の離散化である量子化という二つの操作を行います。CD でも PCM 方式か用いられており,44.1 kHz で標本化され 16 bit で量子化されています。一般に標本化周波数が帯域を決め,量子化ビット数がダイナミックレンジを決めると思われがちですが,それらは密接な関係を持っており個々に論じられるものではありません。シャノンの情報理論によれば,重要なのはそれらの積である伝送速度(単位時間あたりに用いられるビット数)となります。
  1 ビット量子化とは正に最小のビット数である 1 bit で量子化する方式です。1 ビット量子化に関しては幾つかの方式が提案されていますが,近年オーディオ分野ではΔΣ変調と呼ばれる変換方式が広く用いられています。
  差回路と,フィードフォワードパスに比較器(量子化器)をフィードパックパスに予測器(積分器)を設置した帰還ループで構成されるΔ変調方式も 1 bit で量子化する符号化方法として知られています。これは標本値が一つ前の予測値より大きい場合は 1,小さい場合は 0 を出力する簡単な符号化方法です。出力が標本値と予測値の差分を表していることから分かるように出力されてくるパルス列は入力信号の微分情報に相当するものであり,復調においてはこれを積分器で積分し原信号を得ます。 ΔΣ変調方式はΔ変調方式における復調側での積分器を変調側に移動し,Δ変調方式に積分機能を導入したものと考えることができます。つまり,ΔΣ変調回路は差回路と帰還ループ内のフィードフォワードパスに設置された積分器,比較器(量子化器)により構成されます。ΔΣ変調回路では量子化雑音が高域上がりの特性を持ちます。この動作をノイズシェーピング方式と呼んでおり,可聴帯域外に追いやられた高域集中の量子化雑音はディザとしての役割を果たしていると解釈することもできます。また,この回路は出力パルスを信号振幅の瞬時値に追随する密度で発生し,復調に際してはΔ変調で必要であった積分操作は必要なくローパスフィルタを通過させるだけでアナログ信号を得ることが可能です。
  ΔΣ変調を用いた 1 ビット量子化は回路構成が単純である,回路素子の精度の影響を受けにくい,ディジタル信号でありながらアナログ信号のスペクトルを保存している等の特徴を持っており,A/D,D/A 変換器,ディジタルアンプ等に幅広く応用されています。実用化されているシステムでは 2.8 MHz(CD の 64 倍)から 22.6 MHz(CD の 512 倍)程度の標本化周波数が採用されています。
  的確なディザ処理が行われている場合,標本化周波数を非常に高くすれば信号帯域内に一様に分布する量子化雑音が減少し原理的にはΔΣ変調を用いずに 1 ビット量子化で信号帯域内のダイナミックレンジを確保することも可能です。現在はこのようなシステムの実現を目指した研究も行われています。より詳細は大賀寿郎,山﨑芳男,金田豊 "音響システムとディジタル処理" 電子情報通信学会編コロナ社,山﨑芳男,金田豊編著 "音・音場のディジタル処理" 日本音響学会編コロナ社に記載があります。

及川 靖広(早稲田大学)