日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (186)

Q:

モニタスピーカという言葉を見かけますが,普通のスピーカとはどこが違うのでしょうか?

A:

家庭用スピーカ市場でも目にすることが多い言葉ですが,現在のところ,モニタスピーカに対する厳密な定義や仕様の規約などはありません。モニタスピーカとは,もともとレコード会社や放送局がコンテンツを制作する際に使用する高品位なスピーカを指していた言葉で,高い水準で音の品質を管理するための標準機器という意味合いで用いられていました。これらのモニタスピーカは,自宅で音楽などを鑑賞する目的で作られたスピーカとは違い,広い周波数特性や低い歪特性,高い最大音圧レベルや良好な位相特性などが要求されます。更に,用いられるコンテンツの性質によっても,求められる性能に差が出てきます。例えば,人の声がコンテンツの中心的な音である場合,再生周波数帯域の高低両端の拡張よりも,声の中心的な周波数帯域にクロスオーヴァネットワークやユニット間の継ぎ目が存在しない仕様が好まれることがあります。また,同一の制作会社内ではなるべく同じモニタスピーカを用いることで,制作する音源の品質のばらつきを抑える効果もあると言われています。
  近年の録音スタジオでは,ラージモニタと呼ばれる大型のスピーカと,ニアフィールドモニタと呼ばれる近距離での聴取を目的にした小型のスピーカを併用して,コンテンツの制作を行うことが多いようです。大型で高性能なスピーカを用いて制作音源の音質を精密にチェックし,小型のスピーカで家庭でのコンパクトな再生環境における聴取状況を確認します。
  モニタスピーカを用いる上で最も難しい点は,その音響特性が使用環境による影響を大きく受けてしまうところです。スピーカの音質測定は無響室で行われますが,設置条件の制約が多いスタジオや室内に据え付けた場合,必ずしも無響室で測定された音響特性と等しくはなりません。そのため,モニタスピーカは使用する場所の室内音響をしっかり考慮した調整を行う必要があり,これらの最適化を行った上で,十分な性能を発揮することができます。もちろん,設置した部屋の影響を受けるのはモニタスピーカに限ったことではありませんが,精密な音質調整に用いるモニタスピーカにとって,音響特性が変化してしまうことは非常に大きい問題となります。
  一方,市場で見かけるモニタスピーカという言葉は,各国の放送局などの仕様に則したスピーカを納入したメーカーが,その技術を応用して製作したスピーカに対して使用していることが多いようです。

杉本 岳大(NHK 技研)