日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (187)

Q:

ピアノの非調和性が他の楽器に比べて大きいのは何故でしょう。

A:

ピアノの部分音は非調和性を持ち,高い部分音ほど基音の周波数の整数倍からずれています。例えば中音域の音で,第 20 次の部分音の周波数は少なくとも 30 セント,高い方へずれています。
  この分散性は,張力以外に弦に働く弾性の影響に由来します。他の楽器と異なってピアノでは無視できないほど大きく,音色に大きく影響します。一般に弦長に対して弦径が大きいほどずれは大きくなり,ピアノでは最高音部で非調和性が最大になります。一方,同じ有鍵弦楽器であるチェンバロでは,同じ条件で 2 〜 5 セントほどずれているにすぎません。
  この原因はピアノが発展してきた歴史にあります。そもそもピアノの発明は,音量の微弱なクラヴィコードと,強弱のつけられないチェンバロの双方の欠点を補うためになされました。それは 300 年ほど前,イタリアのフィレンツェでのことです。その頃は,強弱がつけられるとはいえ,いまよりずっと細く弱い弦が使われており,太い弦で力強く響く現代の楽器に比べると,全体的にかなり小さい音の楽器でした。 それが産業革命前後の音楽の大衆化により,大きな音が求められるようになったのです。ピアノは一人で演奏できるのが大きな特徴ですから,他の楽器のようにオーケストラの中で楽器の数を増やして音を大きくするのではなく,頑丈でよく響く楽器に変化していったのです。各弦にかかる張力は大きくなり,音量を増すために 1 音に複数の弦を用いるようになりました。この弦の総張力に抗するために,極めて頑丈な鉄骨と太い支柱によって枠組みが作られ,響板も厚くなったのです。逆に機械インピーダンスの大きな響板に振動エネルギーを有効に伝達するために,弦の質量は大きくなければならず,従って張力は大きくなりました。弦の大きな張力と大きなサイズは,同時に弦の剛性を増し,必然的に部分音の非調和性も増加することになったのです。

森 太郎(国立音大)