日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (190)

Q:

近年音響学に登場するようになった言葉として「位相共役波」と「時間反転波」があります。これらは同じ現象を表すのでしょうか?

A:

「位相共役波」,「時間反転波」はともに,ある波があったときに,それと同じ空間分布を持ち進行方向が逆である波のことを言います。ある波の映像(動画)を逆回しにしたような波のことです。この二つの用語は区別されずに用いられることも多いですが,以下のように使い分けられることもあります。
  「位相共役波 phase conjugate wave」とは,「ある波の空間部分を表す関数をその複素共役関数に置き換えた波」と定義されます。これは,ソ連の科学者 Zel'dovich らが,メタンガス中のレーザ光の誘導 Brillouin 散乱を研究していたときに偶然発見した現象です。気体の屈折率が空間的に不均一になると,レーザ光は攪乱を受けますが,順方向に伝搬する光がどのような状態になっても必ず逆方向に正確に帰ってくる光があることを彼らは発見しました。レーザ光のような単一周波数の CW (Contiunuous Wave) が空間的にゆるやかな変調を受ける場合,その場を Re[()exp(iwt )] と書くことができますが,その空間部分を表す関数のみをその複素共役関数に置き換えた場 Re[()*exp(iwt )] は,Re[()*exp(iwt )] = Re[()exp(-iwt )] により,最初の場の時間を反転したようにふるまいます。これが「位相共役」という多少奇妙な述語の起源です。 もともと CW またはそれに近い波に対して考えられたので,時間波形が正確に反転されるかはあまり吟味されず,入射波とは時間エンベロープが異なっていても空間的に同じ波面を持っている場合には,位相共役波と見なされます。
  「時間反転波 time reversal wave 又は time-reveresed wave」は,その名のとおり,「もとの波の時間を反転した波」です。これは例えば,本号 (65巻12号) の解説記事にあるように,もとの波をアレイによって空間的に十分に密にサンプリングし,アレイ各素子の受信波形の時間を反転した信号を生成し,その信号で同じアレイを駆動することによって作り出すことができます。この場合,信号は単一周波数である必要はなく,時間的に急な変調がかかっていてもかまいません。サンプリングが十分に密であれば,時間依存性も含めて,正確な反転波が得られます。「時間反転波」という用語は,時間波形も正確に反転することを目標とする場合に用いられることが多いようです。

大野 正弘(千葉工大)