日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (195)

Q:

劇場・ホールの椅子の吸音力はどのように測定するのですか?また,空席のときと満席のときで椅子の吸音力はどのように変化するのですか?

A:

劇場やホールの中で客席椅子が最も高い吸音力を持っています。一席ごとの吸音力は小さくてもそれが何百席も合わさることで,ホールの音響に対して大きな影響を与えることになります。そのため,客席椅子の吸音力を事前に把握しておくことが,劇場・ホールの音響設計を行う上で非常に重要となります。客席椅子の吸音力測定法は JIS で残響室法吸音率として定められています。この方法では残響室の中に椅子を並べて行うのですが,実際には何百席と並んでいる中から一部(例えば 4 脚× 5 列 = 20 脚)を取り出して測定を行うことになるため,座席列への音の入射状況が実際の状況とは異なり,面積効果などの影響で実効的な吸音力を把握することが難しくなります。そこで並べた座席の周囲に囲い(Well)を設置することで座席列が並んでいる状況を模擬し,音の入射を実際の状況に近づけて面積効果を抑制する測定法が提案されています。 また,更に残響室の非拡散性を補正する手法として,PLD (Power law decay) 補正技術と Well を組み合わせた PLD Deep-Well 法があります。この手法では JIS 法よりも少ない 8 脚での測定が可能で,実際の音場での測定値とよく一致することが報告されています。
  客席椅子に加えて,人も大きな吸音力を持っています。通常は椅子のみの吸音力と比較して,人が座ることにより吸音力は増えることになります。そのため,人による吸音力増の程度を把握することも音響設計の中では重要です。一方で演奏者にとっては,空席となるリハーサル時と,観客が入ったコンサート本番の状況とで,劇場・ホールの音響の変化ができる限り少ないことが望まれます。そこで,人が座ることによる吸音力の変化幅を小さくするために,クッションや布地の材料,クッション厚・面積などを,測定を行いながら調整していきます。また,機械的に吸音力の変化幅を調整する CA (Conservation of absorption) 椅子と呼ばれる客席椅子も提案されています。これには空席時には座裏面に開口ができて吸音材が現れ,また着席時には開口面が閉じて吸音面が隠れるような機構が導入されています。

宮崎 秀生(ヤマハ)