日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (199)

Q:

音響学の講義で 1 オクターブ上の純音は 2 倍の周波数を持つと習いました。しかし,メルの定義では必ずしも 2 倍の周波数が 2 倍の高さの音と知覚されない,とも習いました。どちらが正しいのでしょうか?この矛盾を説明して下さい。

A:

オクターブは物理的に周波数が 2 倍になる関係ですが,この概念は基本周波数という量を計測できる以前から存在していました。1 本の弦を丁度 2 分割したときの,元の長さの弦との関係はオクターブを形成します。ここで注意すべきは弦の長さが 1/2 になって,基本周波数が 2 倍になったとしてもそれが主観的に 2 倍のピッチになったという保証は何もされていないということです。 たしかにオクターブ関係にある音は主観的にも特別な関係にあると感じます。しかし,その理由は主観的な高さが丁度 2 倍になったからではありません。弦の振動など多くの自然の周期音には基本周波数以外の自然倍数列の高調波が含まれます。1 オクターブ上の音の基本周波数は元の音の 2 倍になり,更にそれ以降の高調波は 4,6,8,・・・倍となって,元の音の高調波にすべて含まれていることになります。 調和性を大切にする音楽では,この高調波の重複が重要な鍵となり,オクターブ関係の音同士は同じ部類(同じ音名)の高さの音と見なされます。これに対してメルは,音楽的な知識を排除して「純粋に」人間が感覚的に等間隔と感じるピッチの尺度を求めようとした実験結果を反映したものです。 実験手法としては,例えば,ある音程(二つの音の高さ)を出してそれを主観的に「2 等分」する音の高さを調整法によって求めるというものです。その際にも最初の音程は音楽的な音程から故意に外して調整者の音楽的な知識をなるべく使わせないようにします。この調整はかなり難しいもので実験結果には不安定性がつきまといます。 最初に提案した Stevens らの実験結果は音楽的音階との乖離を示していますが,その後 Siegel が行った実験では音楽的音階に近いものが得られてもいます。オクターブの関係が分かり易いのはそれが主観的に丁度 2 倍のピッチになるからではなく,基本周波数が 2 倍になったときの高調波関係の特殊性が主観的に捉え易いからということになります。 仮にメル尺度を信用して主観的に丁度 2 倍になるような関係で同時に音を出した場合,オクターブ関係からの逸脱による不協和ができてしまうため,音楽として楽しむことは難しいはずです。

津崎 実(京都市立芸大)