日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (024)

Q:

ヒトは水中での音源定位が可能なのでしょうか。また,水中でのステレオ録音はできますか。

A:

水中での音の性質は空気中と異なっており,①伝搬速度が約4倍になります。従って波長も4倍になり,両耳間においての位相差とレベル差が小さくなります。②伝搬による減衰が少なくなります。少々乱暴な言い方をすれば,頭のサイズが1/4になった場合の空気中での聞こえ方を想像してみると良いでしょう。水中においても,耳介を含めた頭部伝達関数は水平面内で全く一様ではないでしょうから,条件を限れば音源方向はある程度は分かると思われます。しかし,空気中での定位の正確さに比べると難しくなることは明らかです。イルカが,物体の位置判断に視覚ではなく自らが発する音の反響を使っている話は有名ですが,その帯域として超音波を使っているという事実は,全く理にかなったものであるわけです。原音場の再生というステレオ収音再生の一つの大きな目的を忠実に行おうとすると,水中の音場を空気中に再生するという難しい問題になってしまいますので,海中でのステレオ収音を試みた一つのエピソードを書いておきます。 水深約 10 m の海で,音源(ダイバーの呼気の上昇音)とマイクロホンの水深を約 8 m に固定し,全指向性水中マイクロフォンを2本使ったペアマイク方式により収音を行いました。そして,ヘッドフォンとステレオコープ(ステレオL,R信号のリサジュー図形を見る装置)を使って,主に音像の広がり感についてモニタしました。ペアマイクの間隔は,60 cm〜10 m(空気中の 15 cm〜2.5 m に相当)の範囲で変化させてみました。一般に,空気中では,マイクロフォン間隔が広いほど全体的な広がり感が増します。海中においても,間隔 60 cm では音の広がり感に乏しくモノ的でしたが,間隔を広げるにつれて音の広がり感が増加しました。しかし,10 m まで広げると音が左右に分離して中央で薄くなる「中抜け」の音となってしまいました。場合にもよるでしょうが,この時は 2 m〜3 m 程度が最も適度なマイクロホン間隔でした。

原賀 俊朗(NHK放送技研)