日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (027)

Q:

超音波も場合によって聞こえるということを聞きましたが,ほんとうですか。

A:

通常の気導音では聞こえませんが,骨導音では聞こえる範囲があります。しかし,その最小可聴値は,音圧レベルで130〜140デシベルに相当し,可聴音では難聴をひき起こすレベルが,超音波ではやっと聞こえるということです。このような感度の差の原因は,蝸牛における内有毛細胞と外有毛細胞の働きの違いにあると考えられます。気導音では,音は外耳道から入って鼓膜を振動させ,中耳の耳小骨連鎖を経て前庭窓から内耳のリンパ液に伝えられます。内耳では,基底膜の振動がその上にある有毛細胞と蓋膜の相対運動をひき起こし,有毛細胞を興奮させます。有毛細胞は,トンネルと呼ばれる部分を挟んで,3列の外有毛細胞と1列の内有毛細胞に分れ,聴神経の末梢は,主として内有毛細胞に終端しています。外有毛細胞の先端の繊毛は蓋膜と接し,基底膜の振動によって剪断力を受け興奮しますが,電流によって収縮する性質を持つため自ら振幅を増幅し,力学的に内有毛細胞の興奮を助けてその感度を上げる働きをすると言われます。ただし,その振動は可聴音の範囲に限られ,超音波領域では動作しません。 一方,内有毛細胞は,リンパ液の中に自立していて,リンパ液の動きに応じて 300 kHz 程度まで振動することができますが,それ自体の感度はあまりよくありません。これらのことから,いわゆる可聴音は,音の入力に外有毛細胞が応答する範囲であり,骨導によって超音波が聞こえる範囲は,内有毛細胞が外有毛細胞の助けを借りずに単独で興奮し得る領域であると解釈されます。すなわち,空気中から強力な超音波を耳に入れてやろうとしても,外耳道から内耳に至る伝音系が動作しないため,空気中の超音波は聞こえませんが,骨導で,強力な超音波を内耳に伝えてやれば,内有毛細胞の応答する範囲の音なら聞こえるということになります。ただし,ピッチやラウドネスの知覚は,可聴音と異なる性質を示します。[やや詳しくは,裳華房刊『くらしと音』(曽根著)をご覧下さい。]

曽根 敏夫(東北大)