日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (028)

Q:

コンサートホールで“残響時間2秒”というのは,どんな意味を持っているのでしょうか?

A:

クラシック音楽の演奏会,中でもオーケストラコンサートに最高の響きを持つ名ホールとして,ウイーンの大音楽堂やアムステルダムのコンセルトヘボウ,今は,失われたライプツィヒの新ゲヴァントハウスの名が常に挙げられてきました。これらのホールは,音響設計の理論や方法,室内音響特性の測定手段などがまだない19世紀の終わり近くに,宮廷コンサートの伝統を受け継ぐ多くの経験に基づいて建てられています。1900年に竣工したボストンシンフォニーホールの設計にあたり,W.C.セイビンによって初めて残響時間という考え方が導入され,前に挙げた名ホールのそれに近い値(満席で2秒前後)にすることで大成功を納めました。それ以前技術的に調整が容易で,音響評価に便利な残響時間が音響設計の手法として広く用いられるようになりました。しかしホールの“音が良い”ことの条件は,決して単純ではなく,同じ残響時間でも聴く場所により,またホール全体についても明らかに音の響きが違うことがあります。こうした問題に関して,その後多くの室内音響特性評価方法が提案されてきました。 残響時間や初期減衰時間(EDT)などは,到達するエネルギー量を決めておいて,それに要する時間から響きを評価する方法です。D値やライヴネスなどは,時間幅を決めて,そこに到達する初期エネルギーと後から来る拡散音の関係に注目するものです。更に音の到来方向の情報を加えて空間の広がり感に対応しようとするものもあります。最近は上に挙げた幾つかの方法と両耳間相関(IACC)などを組合せて,主観評価の結果と比較する研究が進んでいます。それでも残響時間は重要な指標として現在も使われています。オーケストラコンサート,特にドイツ系古典,ロマン派の音楽には,2秒の残響時間が最も良いとする考え方は,既に定着していると言えるでしょう。コンサートホールは巨大な楽器だと言われています。最良の音楽は,演奏者とそのコンディション,演奏される作品,ホールの音響特性などの総合された結果として成就されるものであることは確かで,しかしそこに時代の背景や聴衆の好みや気分などが加わったときの評価の難しさについては,どうしても科学技術に限界があることを認めざるを得ません。 この点について,筆者が直接伺った多くの音響設計専門の方達は,欠陥をほぼ完全に除くことはできても,最高の音響のホールについて技術が寄与できるのは,感じとしてですが 60 から 80 % と答えられたことを申し添えます。

長友 宗重(鹿島建設)