日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (034)

Q:

51巻11号に日本語方言音声の音響分析に関する解説が掲載されており,興味深く拝読いたしました。以前から方言音声に興味を持っておりますが,収録が難しく困っています。研究に利用できる方言音声データがあったら教えて下さい。

A:

方言の大規模な音声データとしては,文部省の重点領域研究「日本語音声における韻律的特徴の実態とその教育に関する総合的研究」(略称「日本語音声」,研究代表者:杉藤美代子大阪樟蔭女子大学教授(現在,音声言語研究所))で収録したものがあり,研究目的に限って利用可能です。同音声データは,下記の2種類の音声データからなっています。(1)「全国共通項目」を,全国105地点の高年(60歳以上)及び中年男性各1名が発声したもの。 (2)「全国共通項目」の一部と主要都市調査項目,個別調査項目を,全国13地点(札幌・弘前・仙台・新潟・富山・東京・名古屋・大阪・広島・高知・福岡・鹿児島・那覇)の小学生から高年までの各60〜100名(男女ほぼ同数)が発声したもの。「全国共通項目」には,(a)単語リスト397単語(単独及び短文中での発声),(b)「天気予報](標準語),(c)随筆「霧」(標準語,「天気予報」と共通の20単語を含む),(d)桃太郎(方言,標準語),(e)会話,(f)日本語五十音表,(g)4桁数字34個が含まれています。これらの音声は DAT 約1,500本に収録され,現在,国立国語研究所(Tel.03-3900-3111),国立民族学博物館(Tel,06-876-2151),大阪樟蔭女子大学図書館(Tel.06-723-8181)及び音声言語研究所(Tel.0742-43-4682)の4か所で保管されています(利用法については検討中)。 このうちの一部は CD 及び CD-ROM 化されており,比較的容易に利用できます。CD 化されているのは,東日本方言(5枚),西日本方言(6枚),共通項目(2枚),琉球方言(1枚),アイヌのことば(1枚)など合計18枚で,これ以外に文章項目(桃太郎,天気予報を含む),文項目,単語項目についてはそれぞれ1枚の CD-ROM に収められています。なお,CD-ROM の場合には音声データファイル名や調査地点,話者性別,話者年齢など各種の情報での検索が可能となっています。以上は全国規模のものですが,大阪方言を中心に収録したものに『大阪・東京アクセント音声辞典』(杉藤美代子著,丸善刊)があります。本辞典は,辞書とは言っても NEC PC-9801 シリーズ用の CD-ROM で,収録された音声を実際に聞くと共に,ピッチ曲線を目で見ることができます。収録対象は主として NHK 編の「日本語発音アクセント辞典(1985年)に収録されている65,928単語で,これらのすべての単語について東京アクセントのほか,大阪市の高年話者3名と若年話者3名がどのようなアクセント型で発音したかが記号化されています。 また,特殊拍(長母音,促音,無声化拍)なども記号化されているため,アクセント型や特殊拍の条件に基づいた検索が可能となっています。また,これらのうち,5,684単語については単独及び短文中で発声された大阪と東京の音声を実際に聞くと共に,ピッチ曲線をディスプレー上で見ることができ,記号レベルでは表現し得ない微妙な違いを分析することができます。更に,2,365単語については,「日本国語大辞典」1〜10巻(小学館)及び「類聚名義抄」に基づく平安時代のアクセント型も収録されており,これを用いた検索も可能となっています。関西地区は,2,000年近く日本の中心であったため,日本語音声の経時的変化を見るために重要な意味を持っています。本辞典にはこれ以外にも大阪弁特有の表現498単語とそれを含む短文の音声とピッチ曲線,大阪・東京の動詞・形容詞・助動詞・助詞のアクセント,大阪・東京方言での朗読音声の比較,大阪弁の挨拶ことばのミニドラマなどが収録されています。なお,本辞典の問合せは,丸善株式会社出版事業部ニューメディア部(Tel.03-5684-5680)となっています。

樋口 宜男(ATR 音声翻訳通信研究所)