日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (040)

Q:

海外での超音波モータの研究・開発は?

A:

最も長い研究の歴史と蓄積を持っているのは旧ソビエト連邦の諸国でしょう。特に,現在のリトアニアとウクライナでの研究が中心的であったようです。彼らの研究は30年ほどの歴史があり,現在も続けられています。過去のほとんどの論文はロシア語であるため私には理解できませんが,一冊の本が英訳されて出版されています。その本によれば,進行波型超音波モータをはじめとするほとんどのタイプが考察されています。しかし,彼ら好みのダイナミクスに関する解説の記述が多く,一体,どんなモータが実現されたのかはよく分かりません。最近は政治情勢の変化により,国際会議などでの発表がありますが,これまでは,軍関係の機密保持のため発表できなかった時代もあったとのことです。現在では,これまでの研究の蓄積を生かして,積極的に共同研究を押し進めていこうとしているようです。北アメリカにおいては,一時期マイクロマシン関係で,圧電薄膜を使った超音波モータが試作されたりしていましたが,最近の研究成果は,耳にしません。結局うまく動作させることができなかったような感じですが,その後の詳細は,不明です。進行波型モータの動作解析に関する論文が出ていたりしますが,シミュレーションだけで,実験はされていなかったので,ぱっとしません。ただ,「大出力の超音波モータを開発した」という噂は耳にしたことがあり,実際のところを知りたいところですが,今のところ不明です。ヨーロッパでは,フランスとスイスでの研究が目に付きます。フランスでは何か所かで超音波モータの研究が行われています。まだ,振動子の開発が主体だったり,動作解析に関する研究が多いようで,それほど際だった試作例の報告を目にはしていません。全体として,どちらかというとマイクロなモータを目指した研究が多いようです。直接聞いた話ではないのですが,「直径2mm,厚さ2.5mm,180kHz10〜40Vで駆動,回転数300rpm,トルク5〜20μNm」というモータが試作されているとのことです。どのような構造のモータかは分かりませんが,なかなかおもしろそうなことをしています。スイスでは,マイクロ超音波モータの研究が進んでいます。彼らは,研究段階としては,PZT薄膜を使って,直径5mmほどの薄型のモータを開発しています。その発表の多くは,MEMS(Micro Electro Mecanical Systems)などのマイクロマシン関係の会議で発表されており,年々改良が加えられています。研究グループの一人から聞いたところでは,実用化のプロジェクトも進められていて(こちらはバルクの圧電材料を使っているとのこと),ある装置に組み込まれた形でサンプル品の出荷の予定まで組まれているようです。それがうまく行けば,量産に持っていく計画で進んでいるとのこと。そうすると,年に何個作って,,,とビジネスにもなりそうな雲行きで話をしていました。すでに,製品(サンプル出荷の段階か?)になっている例としては,イスラエルの会社の「超精密セラミックリニアモータ」というのがあります。“Ultra””が重複するのを避けたためか“Ceramic””という言葉が使われています。原理的にはよく知られた方法となっていますが,それなりの性能に仕上がっているところがなかなかのものです。自重の20倍ほどの推力を発生することができます。そして,ナノメートルオーダの位置決め精度があるということで,「超精密」ということになっています。あと,近いところでは,インドや中国でも研究が進められています。これらの国の研究者は,自分たちの国の環境では,実用化との結びつきの点で不利であると考えられており,他の国の研究者との共同研究を望んでいるようです。超音波モータの研究・開発の現状は,国内での状況においてすら,様々な会議で発表が行われるために,全体を掴み切れない状況です。世界全体となるともっと,といった状況でしょう。これから,ますます発展することを望まれている技術ですが,どこに最先端の研究課題があるのかを見極めて,研究を進めていきたいものです。旧ソ連の研究者は,彼らの研究成果が現在でも最も進んでいると考えているようです。確かに,ダイナミクスに関する研究は多くの論文があります。それぞれ得意とするところがあるようです。惜しむらくは,ロシア語が理解できないことです。

執筆者:黒澤 実(東大・工)