日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (041)

Q:

多目的対応のためのホールの残響可変装置とはどのようなものでしょうか?

A:

コンサートホール,オペラ劇場のような専用ホールとは異なり,式典,講演会,クラシックコンサートからポピュラーコンサート,演劇,オペラ,映画等,各種の催し物に対応しなければならない多目的ホールでは,催し物に応じた舞台設備の充実と共に,最適な響きが要求されます。この好ましい響きの条件としては,催し物別に最適残響時間として幾つか提案されています。一般に,講演会,ポピュラー系コンサート,演劇等のスピーチ,軽音楽,セリフが主体の電気音響設備を使用する催し物には,その明瞭度が重視され,残響時間は短めであり,クラシックコンサートには豊かな響きが必要なため,響きの量からいえば,長い残響時間が求められます。クラシックコンサートに求められる豊かな響きは,講演会,ポピュラー系コンサート,演劇等の使用条件にはマイナスです。また,クラシックコンサートについてもパイプオルガンの演奏,大編成のオーケストラから室内アンサンブル,ピアノソロ等のリサイタルまで様々な演奏規模,形態があり,その種類によって好ましい響きが要求されます。このため,残響可変装置は多目的ホールだけでなく,コンサートホールにも設置されることがあります。残響可変装置には,建築的な可変吸音体方式と電気音響設備を利用した電気的な方式があります。一般に,多目的ホールで採用されている舞台反射板と舞台内部空間の吸音処理も,使用目的に対応した舞台可変の一種の残響可変と考えられます。 我が国の多目的ホールで多く採用されている可変吸音体方式の残響可変装置は,残響時間の短縮を目的としており,建築的には,十分な室容積の確保とライブな空間になるような内装仕上げを前提とし,可変吸音体により残響時間を短縮する方法です。ただし,広い範囲の可変と低音域までの可変のためにはかなり大規模な構造が必要となり,建築意匠的な自由度が制約されるマイナス面もあります。  建築的な可変吸音体を用いた残響可変装置には,反射と吸音仕上げされた建築部位の可変の仕方,機構により回転式,開閉式,吸音体吊り下げ式等があります。回転式には,円筒,箱型,菱形等の形状の空気層を持つ吸音体が客席側壁に縦軸,横軸に設置され,回転又は反転する方式で,回転角度により吸音体を変化させることができます。開閉式も基本的には回転方式と変わりなく,吸音仕上げの面を反射性の扉,シャッタ等でスライド,観音開きし,吸音特性を変える方式です。この方式で,最も簡単で,安価にできるものとして,手動でカーテンを開閉する方式があります。厚手の幕地を吊り下げる方法です。可変幅を大きくするためには,面積を大きく取ることと共に,カーテンの収納方法にも注意が必要です。なお,吸音
体吊り下げ方法は,天井から文字どおり吸音体を懸垂させる方式で,吸音体が筒状,板状,棒状のものが考えられます。通常,多目的ホールでは,使用目的に対して,平均吸音率を0.05程度変える必要があります。このために,200〜300m2程度の可変面積が,また,できるだけ隙間のない構造が必要といわれています。当然,響きの質を考慮し,初期反射音に着目し,設置場所,構造を決めることとなります。我が国では,この建築的な可変吸音体方式が一般的でしたが,最近では,信号処理技術,電子機器の性能向上により電気音響設備による音場制御方式が注目されています。この方式では,残響音成分の付与のみならず初期反射音の付与を目的とした各種の方式が開発されています。電気的なこの装置は,当初デッドなホール,あるいは好ましくないホールの音場の改善を目的として導入されていましたが,最近では,電気音響設備による音場の可変を前提としたホールも計画,建設されています。従来から,多目的ホールに採用されている可変吸音体方式の残響可変装置に比べ建築空間への意匠的な影響は少なく,しかも残響時間が伸長できるのが特徴です。しかし,この方式の演奏者の電気音響設備を使用することへの拒絶,驚きの質についての拒否反応等も無視できなく,導入にあたっては,関係者が実際に使用されているホールの音響を聴覚的に確認すること,使用条件の設立,装置の調整,運用にあたってのきめ細かい対応等が要求されます。

執筆者:池田 覺(永田音響設計)