日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (046)

Q:

外耳道に入った音のエネルギーのほとんどは内耳に到達しないと聞いたことがあります。本当なのでしょうか?

A:

質問者の方が聞かれたのは次のような説明ではありませんか。空気の特性インピーダンスは430Pa・s/m,一方,内耳を満たすリンパとほぼ同じと考えられる水のインピーダンスは1.5×106Pa・s/mですから,4Re(z1・z2*)/|z1+z2|2*は共役を示す  で与えられるエネルギー伝達率は,わずか0.1%です。ところが,耳小骨などによって100倍を超えるインピーダンス変換が行われるので,この効果を考慮すると,鼓膜への入射エネルギーの数%の音のエネルギーが内耳まで伝えられると考えられます。一方次の議論はどうでしょう。鼓膜の入力音響インピーダンスとして代表的なのは,1kHz付近で,300+i100Pa・s/m程度の値です。これを上の式に入れますと,95%程度の値が得られます。すなわち,鼓膜に達したエネルギーのほとんどは,少なくとも鼓膜の内側までは入ることになります。この後,耳小骨などである程度の損失があるにせよ,かなりの割合が内耳に達することでしょう。これら二つの,どちらの方が正しいのでしょうか。私は,当然後者であると思っています。後者は,鼓膜を見込んだときのインピーダンスさえ測定できていれば自明です。前者は1954年のWeverの説明以来のようです。(Pickles1988)。では,この説のどこに問題があるのでしょうか。それは,あぶみ骨から蝸牛を見たときのインピーダンスを,水と同じとしたことによるのです。しかし,アブミ骨が卵円窓を押しますと,リンパは蝸牛孔を通って正円窓を押すことになります。従って,アブミ骨から見込んだ蝸牛の入力インピーダンスは,水のインピーダンスよりはるかに小さな値となると推定されます。実際,ネコによる実測値では,水の特性インピーダンスの10分の1程度の値が得られています。これなら100倍を超える比のインピーダンス変換があれば(あるので),整合はかなりうまくゆくことになります。
Pickles(1988)の関連した議論も,ご一読をお勧めします。この良書が,翻訳によって大変楽に読めるようになったのは嬉しいことです。J.O.Pickles,An Introduction to the Physiology of Hearing(Academic Press,1988)(谷口等 訳,聴覚生理学(二瓶社,1995))

執筆者:鈴木陽一(東北大)