日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (048)

Q:

ヒト以外の霊長類は記号という概念を持っているのでしょうか。声を言語的記号として文法的に交信することは無いのでしょうか。

A:

いわゆる「言語」訓練を受けたチンパンジーは,いろいろな物体,例えばボールや積み木などを見せられると,それらに対応した図形記号を選ぶことができます。京大霊長類研のアイというチンパンジーはおよそ100の記号を獲得しました。これらの記号を組み合わせて使用することもできます。これを文法の萌芽と捉える研究者もいます。物などを見て記号を選ぶ「記述」のテストに対して,記号を見て物を選ばせる「理解」のテストも可能です。ヒトでは記述ができると理解も可能です。ところがチンパンジーでは記述ができても,理解には別に訓練が必要で,多くの事例を与えると理解が促進されます。記述と理解の訓練を十分に受けたチンパンジーは記号を正しく使用しているように見えます。ただ,チンパンジーはこれらの記号を自ら作り出したわけではなく,ヒトが与えたものです。野生のチンパンジーが様々な身振りで記述・理解をしているかどうかはまだ十分に研究されていません。チンパンジーの「言語」研究は,音色-聴覚系から図形「語」,手話に移ることにより,華々しい成果を収めました。換言しますと,彼らに音声-聴覚系の記号を獲得させることは容易ではありません。ヘイズ夫妻が訓練したチンパンジーのヴィッキは,6年間でわずか4語「話した」に過ぎません。ただし,野外では多様な音声コミュニケーションがあり,実験室の結果とは異なります。社会的なコンテクストを離れると,ヒト以外の霊長類の聴覚と音声は可塑性を欠くように思われます。単位的な音を組み合わせ音節,語,文を作ることは彼らにとって極めて困難です。最後にボノボ(ピグミーチンパンジー)は,普通のチンパンジーと異なり,言葉の理解がよく,音声模倣に類似した行動を行うといわれています。今後の成果を見守りたいと思います。

執筆者:小嶋祥三(京大)