日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (049)

Q:

最近,客観音質評価法という言葉を耳にしますが,具体的にどのようなものなのでしょうか?

A:

客観音質評価法とは,一口に言えば,音響信号の主観品質を物理量として計測する手法のことです。最近研究が進んでいるのは,音響信号の高能率符号化方式の評価への応用を目的とした手法であり,通信,放送,工業界などから注目を集めています。有名なMPEG Audioの標準化方式をほじめ,MDや,DCCなど最近の音響機器に採用されている高能率符号化方法の多くは,マスキング効果などの人間の聴覚特性を巧みに利用して聴感的にノイズを隠ぺいする技術を使用しています。このため,SN比などの従来の物理量では主観品質の良し悪しを判定することが困難となってきています。かといって,主観評価試験には多大な時間と労力を費やすことから,特に,通信,放送の運用管理や製造業での製品管理において,これらの性能を迅速に測定できる新しい客観評価法の確立が望まれるようになりました。現在までに,複数の客観音質評価法が提案されていますが,それらに共通するのは,人間の聴覚メカニズムを数学的に模擬した聴覚モデルに基づいていることです。すなわち,周波数変換した符号化信号と符号化前の原信号のそれぞれについて聴覚モデルの応答を求め,両者の差分を聴感上の歪量に対応した物理量(以下,聴覚歪量と呼ぶ)として定義します。このとき,聴覚歪量が聴感上のスレッショルドを越えている場合には主観品質の劣化の度合いを示しスレッショルドを下回っている場合はノイズの検知限までのマージンとして評価されます。これまでに,客観音質評価法を用いた実測例が幾つか報告され,符号化方式の相対比較などにおいて有効性が示されています。一方,聴覚歪量から主観評価スコア(5段階評価など)への近似式を導出することで主観評価結果の予測する試みがなされていますが,こちらの方は,音源や符号化方式の特定など条件を限定した場合以外は,まだ十分な対応が得られていないのが現状です。

執筆者:菅並秀樹(NHK)