日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (051)

Q:

視神経は左右が交差していると聞きましたが,聴覚系ではどうなっているでしょうか?

A:

例えば右の内耳から発した聴神経は同じ右側の蝸牛神経核を介して,左側の上オリーブ核や下丘等に連絡されます。ただし,これらの核は左の蝸牛神経核からの連絡も受けますので,単純な左右交差ではありません。上オリーブ核等では,左右の情報を統合して音源の位置を計算し,その結果にある程度対応して信号を振り分けると考えられています。つまり,右半空間から来る音は主に左脳に伝達されるのです。右耳に入った音が左より強いか早ければ,音の情報が右から来ているということになりますから,左の脳に優先的に伝えられると考えれば分かり易いでしょう。 上オリーブ核より上では,信号は主に同じ側を上行しますが,下丘や大脳でも左右の連絡があるため,右耳に入った音の情報が左の脳にしか行かない,ということはありません。特に大脳では,約9割のヒトで言語機能が左脳優位になっているため,どちらの耳に言葉が入っても,左右大脳を接続する脳梁を介して,言語的意味情報は左脳優位に処理されます。右脳では,音声のプロソディ情報等が処理されると考えられていますが,この点に関しては,まだ議論の余地があるようです。 ちなみに視神経の場合,ヒトや類人猿,肉食哺乳類など,両眼視ができる動物では視神経というより視野が交差します。つまり,左目の左視野担当の神経(左目視神経の約半分)は視交叉の部分で交差して右後頭葉に入ります。しかし,左目の右視野担当の神経は交差せずに左後頭葉に行きます。ただし両眼視の機能がないネズミなどの動物では,左右視神経がほぼ完全に交差して反対側の後頭葉に連絡します。視聴覚いずれにしても,神経系は単純に解剖的に交差するというより,各々の動物にとって適応的意味のある,機能的左右交差を進化の過程で獲得した,ということが言えるでしょう。

執筆者:森 浩一(東京大学)