日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (054)

Q:

列車騒音にはいろいろな音源がありますが,列車の速度によって騒音の大きくなる傾向がそれぞれ異なるのはどのような原因によるのでしょうか。

A:

どんな乗り物でも,速く走れば走るほど大きな音を出します。鉄道列車の走行騒音も例外ではありません。ただ,列車騒音は非常に多くの音が重ね合わされていますので,その列車速度依存性を理解するには,一つ一つの要素騒音の性質をはっきりさせ,それらが条件に応じてどのような割合でたし合わされているかを知らなければなりません。各要素騒音を取り出して,おのおのの速度依存性を測定することはそう簡単なことではなく,それらの寄与率を正確に評価することは一層難しい仕事です。ここでは,そういう音源別分離の話は省いて,代表的な列車騒音である「転動音」と「車両空力音」の二つの列車速度依存がどう理解されているかをできるだけ簡潔に説明したいと思います。

1.転動
音の速度依存性 転動音は,車輪がレール上を転がりながら進行するとき励起される両者の振動から発生する音です。進行速度(V)がゼロならば,音は出ません。音の大きさを決めるもう1つの要素は,車輪・レールの接触面の凹凸です。なぜなら,車輪とレールの表面の凹凸が外力として作用し,両者に振動が励起され,これらの振動が結局は転動音の要因となるからです。両者の凹凸は,振幅の波数スペクトル密度U(k)で特徴づけられます(kは波数,Uの次元:長さの3乗),強制変位加振の線形理論によれば,加振力のパワースペクトル密度は,Vに依存する因子,U(w/V)/Vに比例するという結果が得られます(wは振動の角周波数)。従って,結局は,レールやそのほかの部材からの発生音もこの因子に比例するということになります。問題は,関数U(k)がどのような形をとるかですが,例えば,U(k)?1/k3とすれば,放射パワー?V2となります。実際の転動音は,V2〜3則に従いますので、上の推論はだいたいにおいて正しいと解釈されています.

2.車両空力音の速度依存性
車両空力音は、車両のまわりに生じた気流の乱れが直接空気を揺さぶることによって発生します.空力音と通常の振動音の発生伝搬には、それほど大きな違いはありません.事実、ライトヒル氏は、空力音の発生伝搬は通常の非齊次の波動方程式で記述されること、空力音の音源は、多くの場合、双極子、四重極子音源で近似されることを示しました.空力音の音源の目立った特徴は,マッハ数の低い気流から発生する通常の空力音の波長λが,音源の寸法аと比べて非常に大きいということです。空気流の音源の場合は,簡単なオーダ評価から,а/λ?M(気流のマッハ数)が得られます。a<λの場合,一般に,音の放射効率はa/λ(すなわちM)に依存します。依存の仕方は音源の性質,周囲の条件によりますが,自由空間放射のときは,a/λのベキ乗に比例し,ベキ乗の指数は,単音源,双極子音源,四重極子音源,?によって,2,4,6,?の値をとります。従って,音源の振動速度として気流の速度Vをとれば,空力音の放射パワーは,双極子音源の場合はρcV2M4に,四重極子音源の場合はρcV2M6に比例することになります(ρは空気の密度,cは音速),M=V/cを考慮すれば,それぞれの場合の速度依存について,V6V8比例という結果が得られます。 実際の車両空力音は,V6~7則に従いますので、自由空間放射の仮定がほぼ成り立つと考えられます.しかしながら、時には、笛のような音が発生し速度共鳴を示すこともあります.状況によって複雑なマッハ数依存が得られるのは、ライトヒル理論の範囲でも当然考えられることで、丁寧な計算を実行すればそういう複雑なケースも説明可能であると思います.むしろ、だいたいにおいてでもVのベキ乗則が成り立つことの方が不思議で幸運であると言ってよいでしょう.なお、気流の速度Vは、当然、列車速度に比例します。

執筆者:森藤良夫(興和化成)