日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (057)

Q:

ホールやスタジオ等のある種の内装条件によって起こる異常音はどのような原因によるのでしょうか?

A:

ホールやスタジオでは,室内音響条件から,内装に反射,吸音構造の仕上げが施されますが,この仕上げ方法を誤ると,次のような現象によって音に歪を与えるようなことがあります。この原因は,内装の形状,材料,構造によるものです。 室形からくるものとしてエコーがあります。ご存じのとおりエコーには,ロングパスエコーとフラッタエコーと呼ばれるものがあります。ロングパスエコー,山彦と言えばお分かりのとおり,時間遅れのある反射音によって一つの音が二つに聞こえたりします。当然明瞭度を損ねる原因ともなります。フラッタエコーというと,寺院の鳴竜が思い浮かびますが,平行して相対向する反射面間で短音を発した場合に生じる一定間隔で繰り返される反射音をいいます。反射面間の距離によって“ピチッ””“ブルン””といった音が聞こえ,音のカラーレーションと呼ばれる特定ピッチの音が強調される現象が生じます。これらのエコーは,反射面を傾けるなどの形状対応,吸音,拡散処理により除去できます。 内装構造,材料に関するものとして,選択吸音,過度の吸音,音響回折格子による現象などがあります。ホールは楽器だから木が音を良くするんだという考え方,また,ヨーロッパでの木のホールは成功するという逸話からホールの内装に木質系のボードを使用することがあります。木質ボード表面のディテールによる微妙な反射率の違いからくる利点もあるでしょうが,ボードを使用すれば,コンクリート,石などに比べ板振動によって低音域の吸音が期待でき,椅子,聴衆などによる中・高音域の吸音とバランスし,周波数特性の上で平坦な響きが得易いことも事実です。だからといって,使い過ぎは良くありません。板振動によって特定の周波数,ボードの厚さ,下地条件にもよりますが,普通250Hzあたりでの過度の吸音となり,演奏音を吸収することにもなります。この現象を軽減するために,ボードの積層,下地のピッチ,トロ詰め等の対策を行い,板振動を抑えると共に共振周波数を分散させることが行われています。このほかにも似たような現象に客席の椅子構造による特定周波数での過度の吸音,また,特定周波数での影響という意味ではSeat-dip effectという干渉による低音域での減衰による影響もあります。コンサートホールにおけるSeat-dip effctによる減衰は,50~500HZで生じ,100~150Hzでは1,000Hzに比べ約10dB程度の減衰があるといわれています。 逆に,等間隔の凹凸の連続が音響回折格子を構成し,一種の選択反射を起こし,異常音を発生させる場合があります。内装の反射,吸音構造に関して,その仕上げ表面材としてリブ構造がよく見られます。これは,意匠性,剛性の高さと開口率の確保からよく採用されるようですが,等幅,等間隔のリブ配列のように規則正しいリブ構造の場合,その面積にもよりますが,斜めからの入射音に対して特定の周波数の反射音が強調され,“ヒュンヒュン””といった異常音を発する現象が生じます。波板スレート,タイルのようなものでも,規則正しい起伏のある場合,同様な現象が起こる可能性があります。当然,特定の音を強調することになります。この現象をなくすためには,このような形状を避けることが望ましいのですが,どうしても採用を避けられないような場合,音響回折格子を構成している等間隔の凹凸の連続をなくすか,凹凸の深さ,間隔を不規則にすることなど,深さ,間隔に十分注意する必要があります。 最後に音鳴り現象について,空調の換気口のガラリ,パイプオルガンのグリル,あるいは,内装仕上げの金属パイプ製のリブなど,比較的共鳴し易い仕上げ構成の場合,それが共鳴し,純音成分の音鳴りがすることがあります。音を停止してもこの共鳴音が鳴り止まず,場合によっては録音にも支障をきたすことがあります。これらの内装条件の採用の場合,共鳴しないような支持,空洞内の詰物,蓋,制振材の貼付けなどによる対策がはかられます。 以上のような内装条件による異常音については,いずれも設計段階では簡単に解消できますが,完成されたものでの解決はなかなか難しいことも事実です。

執筆者:池田 覺(永田音響設計)