日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (059)

Q:

音波は何故回折するのですか。また,何故低周波音の方が回折し易いのですか。物理的なイメージを教えて下さい。

A:

音波や光のような波動の回折現象については,物理の教科書に,Fresnel-Huygensの原理に基づくものとして説明されています。つまり,Fresnel-Huygensの原理「波の存在する空間の中の一つの点における波の振幅は,その点を含む任意の閉じた面を考えたとき,そのうえのすべての点から出る素波を重ね合わせた合成振幅で与えられる。ただし,素波はそれが出るときに,その点での一次波(波動源からの直接波)と同じ位相を持ち,かつ一次波の振幅に比例する振幅を持つ。」によって,波が遮蔽板にぶつかるとき,その遮蔽板が全く波を遮蔽するとすると,その端を過ぎる一次波のみから素波が発生し,それが遮蔽板の端を回り込むように波面を形成します。それが回折現象です。なお,Fresnelは,「一様な媒質の中では,素波は球面波であるが,振幅が方向によって違い,波の進む方向,すなわち波面の前向きの法線と角θをなす方向の振幅は,1+cosθに比例する」として,後退波のできないことを証明しています(出典:物理学概説,下巻,多田政忠編,学術図書出版社)。

しかし,この説明は一見分かったようで,物理的イメージを明確にすることは難しい。回折とは,どのようなものでしょうか。音波を例にとって考えてみましょう。音波は空気粒子が振動して,空気の粗密部を伝搬させていく現象ですが,平面波や球面波では,波面の進行方向と垂直に隣接する部分の粗密が同相であるため,その方向の圧力バランスがとれ,粒子振動は波面の進行方向にのみ発生しています。しかし,遮蔽板の端を通過するときのように,隣接する部分に同相の粗密がない場合は,圧力バランスが崩れ,空気の粗密に合わせて,空気粒子が横方向に押し出されたり,引き戻されたりするようになり,その方向にも波面が広がっていきます。これが回折現象と考えられます。このように,空気の粗密(局所圧力)に合わせて粒子を押し出したり,引き戻したりするポテンシャルを素波と表現したのが上記と考えればよいのでしょう。 音波が遮蔽板の端を通過するとき,端の外側に形成される一次波の波面と,遮蔽板の後ろに形成される回折波の波面はつながり,その回折波はあたかも遮蔽板の端の部分から新たに発生したような波面を形成します。ただし,その強さは上記の1+cosθの関係を保ちます。 回折音場は一次波から発生する素波の重ね合わせの場であり,その強さの分布は,距離/波長で無次元表現が可能です。有次元で考えますと,低周波では正の音圧領域,負の音圧領域それぞれが大きく,それらが干渉して減衰するまで長い距離が必要になります。従って,遮蔽板の端から一定の距離では,波長の長い低周波音ほど,無次元距離が短くなり,音が大きくなります。これは,低周波音ほど回折し易く,高周波音ほど回折しにくいことを表しています。 近年防音壁の先端を吸音構造にしたり,音圧ゼロのソフト境界にする研究開発が盛んに行われていますが,音の回折点となる先端付近で,空気の粗密を低減し,横方向の粒子の動きを抑えることによって,音の回折量を低減しようとするものと考えられます。本解釈は著者の私見であり,いろいろ問題もあると思います。ご意見を編集委員会宛寄せていただければ幸いです。

執筆者:西村正治(三菱重工)