日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (062)

Q:

テレビ会議のハウリングやエコーにはエコーキャンセラが有効のようですが,ハウリングといえば,拡声装置のハウリングも大きな問題になっています。エコーキャンセラは,拡声装置のハウリングにも有効ですか?

A:

ご質問にお答えする前に,エコーキャンセラの原理と動作について知っていただく必要がありますので,簡単に説明しておきます。エコーキャンセラは,テレビ会議などの拡声通話において,ハウリングやエコーを防止する装置です。その原理は,まず,相手側の話者の音声信号と,その声がスピーカ,空間,マイクロフォンからなるエコー経路を介して再びエコーとなって戻って行く信号とを用いて,エコー経路の伝達特性を推定します。次に,推定した伝達特性を用いて擬似エコーを生成して真のエコーから差し引きます。これにより,ハウリングやエコーを消去します。一方,こちら側の話者の送話音声は影響を受けることなくそのまま伝わります。このとき,ご質問に関連して重要なことは,両方の話者が同時に話している場合には,エコー経路の推定が非常に難しくなることです。ですから,通常は受話のときにだけエコー経路の推定を行い,同時通話のときにはエコー経路の推定は行いません。さて,ご質問の拡声装置では,マイクロホンに向かって,話した声は,その場でスピーカから出て再びマイクロホンに入ります。すなわち,マイクロホンにはスピーカからの音と話者の声の両方が常に入ることになります。これは,エコーキャンセラにとってみれば,一番苦手な同時通話状態になります。従って,現在のエコーキャンセラをそのまま拡声装置に適用したとしても,大きな効果は期待できません。同時通話時においてもエコー経路を的確・迅速に推定する方法は,今後の重要な研究課題と考えられています。ちなみに,エコーキャンセラはスピーカから出た音を予測して差し引く装置ですので,話者の音声に付加された室内反射音や騒音などは除去することはできません。トータルシステムとしての良い拡声通話を実現するためには,いろいろな技術をうまく組み合わせることが大切だとも考えています。

執筆者:牧野昭二(NTTヒューマンインターフェイス研究所)