日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (063)

Q:

コウモリは超音波を使って虫を捕まえるそうですがどのようにしているのでしょうか。

A:

コウモリには、大きな丸い目を持ち昼間行動して果物を好むオオコウモリと、日本の洞穴にもく住む小型のコウモリがいます。このうち超音波を使うのは主に小型の方で、夜間に行動し、ほとんど目は見えません。仲間同士の連絡のほか、飛翔中キャリア周波数が数十kHzから100kHzの超音波パルスを出し、戻ってきたエコーから障害物や餌となる虫、小魚などを探知します。つまりソナーの原理で、瞬時に標的までの距離測定、相対速度測定、標的の識別などを行います。では一体どうしてそのような高度な計測ができるのでしょうか。例えば、南米などにいるヒゲコウモリという種類は、図に示すようなパルスを用いています。まず周波数約61kHzで20ms程度持続するCF(continuous frequency)波部分があり、その後に急に周波数が下がるFM部分が続きます。このパルスが何かに当たると、そのエコーは一般に往復伝搬時間だけ遅れ、またもしコウモリが標的に接近しつつある場合にはドップラ効果で周波数が少し高くなって戻ります。コウモリは自分の出した超音波の声とエコーとを聴き、それらの時間差から距離を測定しますが、FM部分があるためにパルスの最後が明確となり、高い精度が出ます。また、エコーのドップラシフトから接近速度を知るためには、ある長さの連続波(CF波部分)を必要とします。このときコウモリは、ドップラ変換保障と呼ばれる信号処理を行いますが、これは計測技術上非常に興味深いものです。コウモリは通常毎秒2、3発のパルスを出して哨戒飛行をしていますが、エコーを捉えその標的に興味を持つと追跡を開始します。パルス頻度を毎秒数十発くらいに上げ、また同時にキャリア周波数を61kHzから徐々に下げるという不思議な挙動を示します。こうすると、エコーの周波数も下がって61kHzに近づきます。つまり受信信号の周波数を微調整し、常に61kHzで信号処理をしているわけです。これは電気信号を常に中間周波数に変換し、そこで高度な処理を行うヘテロダイン検波と似たセンスの技術です。実際ヒゲコウモリの大脳の聴覚を処理するある部分は、場所によってそれぞれ扱う周波数が異なりますが、61kHzには特に広い面積が与えられています。つまり単一周波数用の高級計器を備えているわけです。更にこのCF波の部分は相手の識別にも利用されます。このコウモリの好物はガなどの昆虫で、飛んでいるときは必ず羽を動かしています。従ってエコーのCF波は羽の運動によってFM変調されています。これを検波すればブーンという羽音を聞くことができ、ただ木の葉が舞っているのではなく、好物の虫が飛んでいるということを認識できます。ガは音を出さないように静かに飛んでいるつもりなのですが、コウモリは超音波キャリアのFM変調で、羽音を聴いているわけです。このように連続波とチャープ波を組み合わせた特殊な変調パルスには、信号処理上重要な意味があるわけです。このようなコウモリの聴覚の研究では、ワシントン大学の菅ノ武男教授が世界的権威者で、その業績は非常に高く評価されています。

高木堅志郎(東大)