日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (007)

Q:

車の中で若者がヘッドフォンステレオを聞いている光景をよくみかけますね。その際いつも疑問に思うのですが,本人にはきれいなハイファイ音で聞こえて いるはずなのになぜまわりで聞くとシャカシャカした雑音に聞こえるのでしょうか?

A:

ご質問の内容から二つの聴取状況を対比することになります。すなわちヘッドフォン受聴者は耳とヘッドフォン(この場合は挿入型の)とで作られる空間に生じる音圧を聞いており,一方,周囲の人はヘッドフォンから自由空間に放射された音圧を聞いている。そこで,それぞれの場合についてその音圧の周波数特性を考えてみます。耳に装着しているときの耳の中の音圧と,周囲の人に伝わるときの自由空間に放射している音圧とでは平坦な周波数特性にするための条件が違ってきます。後者の典型はスピーカです。スピーカの場合,振動板の振動速度と周波数は反比例するという慣性制御で振動板が駆動されます。また,ある程度の振動板の面積がないと放射音響抵抗が小さくなりすぎ,振動板の振動が有効に音圧になりません。 低音用のスピーカは高音用スピーカに比べて口径が大きいのはこのためです。一方,ヘッドホンの場合はヘッドホンと耳によって構成される空間が音響コンプライアンス(電気系ではコンデンサに相当)となります。この空間の音圧周波数特性を平坦にするには振動板の振動速度と周波数とは比例関係になる必要があります。これをスティフネス制御と言います。そこで,ヘッドフォンから自由空間に放射される音はスピーカと正反対の特性のため,高音のみ強調されることが想像できます。ヘッドフォン筐体の後ろの開口から漏れる音が原因であれば,以上述べたように高域強調するように振動板が駆動され,かつ口径が小さいためシャカシャカ聞こえるのではないかと言うのが1つの回答です。 しかし,実際ヘッドフォンを設計している技術者が調べたところによると,外側で聞こえる音のほとんどは耳の中の音圧が耳とヘッドホン筐体の隙間から漏れたものだそうです。その漏れた音の周波数が 5 kHz から 6 kHz 付近に集中しているためシャカシャカ聞こえると言うわけです。そこで,現在の挿入型ヘッドフォンはこの漏れを低減するために,ヘッドフォン筐体の外周形状を単なる円形から一部出っ張らせて,隙間を塞ぐようにしています。また,その他にも振動板の取り付け位置とその開口部を外耳道に合わせるよう筐体に対して偏心させたり,5 kHz から 6 kHz 付近のレスポンスを下げるノッチフィルタを入れるなど,目立たないところに改良の努力がなされているようです。 まだ説明不足の部分があるかもしれませんが,以上でご質問への回答にさせていただきます。なお,本回答作成に当たり,ソニー/稲永潔文氏,東北パイオニア/中園次郎氏のご協力をいただきました。

柳川 博文(千葉工大)