日本音響学会

音のなんでもコーナー

Q and A (074)

Q:

声については著作権や肖像権が認められていないと聞いたのですが,本当でしょうか?もしそうなら,他人の声を加工して悪用した場合,それを罰する法律はないのでしょうか?

A:

声についても,著作権や肖像権に相当するものが認められています。著作権は知的所有権の一種で,文化的な創作物を保護の対象とし,著作権法という法律で保護されています。文化的な創作物とは,人間の思想,感情を創作的に表現したもので,著作物といいます。それを創作した人が著作者です。

 音声の著作権は基本的にその音声を発声した本人にありますが,NHKなどの放送会社の社員が業務として発声し放送された音声は,本人ではなく,その放送会社の著作物として扱われます。放送の対談などに登場するゲストの音声の著作権は、もちろんその本人にあります。更に放送の音声の場合,著作者の権利とは別に,放送局が著作隣接権(放送を複製・再放送する権利)という権利を持っています。最近の特に民放の放送は,放送会社が直接制作せず,プロダクションと呼ばれる会社が制作したものを放送することが多いので,これらの音声の著作権は,そのプロダクションが持つ場合も多いようです。

 放送などの音声を,個人が楽しむ目的で録音したりするのは自由ですが(著作権法第30条),それを業務などの目的で使ったり,利用した結果を公表するためには,著作権や著作隣接権を持っている本人や会社の許諾を得ることが必要です。そうでないと,著作権侵害となる恐れがあります。権利者に損害を与えるかどうかということは無関係です。研究目的も例外ではありません。すなわち,放送された音声を,音声合成,音声符号化,音声認識などの研究目的に用いる場合も,許諾を得ることが必要です。この許諾を得るためにどの程度の対価を支払うべきかということに関しては,まだ明確な基準がないようです。これからマルチメディア・コンテンツの著作権が議論されていく中で,音声の著作権についても,基準が作られていくものと思われます。

 肖像権は,法律に定められた権利ではなく,憲法の基本的人権に関わるプライバシーの問題です。声から個人が特定できて,それが無断で利用されたときに,訴えられるなどして初めて問題になります。著作権や肖像権は,文化を創造する人達の権利や個人の人格を守るために,長年にわたって築きあげられてきたものです。誰もが,自分の権利を守る側にも,利用する側にもなりうるわけですから,著作権や肖像権をきちんと尊重する姿勢があって初めて,それを使う権利が与えられるのだということを忘れないようにしたいものです。

 本稿を書くにあたり,著作権や肖像権に関して,貴重な文献や知識を提供いただいた,NHK放送技術研究所の安藤彰男氏と東京工業大学の米崎直樹教授に感謝いたします。

古井貞煕(東工大)